日記190日目
ロゼライアの月30日。
お姉ちゃんはあんまり「夏候の宴」に興味がないっていうか、乗り気じゃないみたいでドレスについても話してくれなかった。
確かにあの妃たちに囲まれてたら、何か言われたり最悪ドレス破かれたりするだろうし、気が重くなるのも無理はないか…
無理強いは出来ないから、お姉ちゃんのドレス姿は諦めた方がいいのかも。
すごく残念。
今日もルリィが美味しいご飯用意してくれてると思うし、気持ちを切り替えてアイツとの勝負、がんばるぞー!
――などと意気込んでいたサティリアは、木に手を付いて乱れていた呼吸を整えようと息を思いっきり吸い込んだ。
「何をしている。とっとと動け」
「っ!!」
そして数歩後ろから鬼コーチのような事を言って見下ろしてくる男を睨み、同時に思っていた。
どうしてこうなった……!?
最初はいつもと同じように集って、秒針が真上になったので勝負が始まった。
今日は最初から全力で来る日であったらしく、男は最初からサティリナの後を追いかけてきた。
……ここまではいつも通りだ。
少しでも記録を伸ばさなければ! そう必死に走ったサティリナは途中から気づいたのだ。
何故か男はすぐにサティリナを捕まえられる距離を維持しながら、捕まえる事無くずっと付いて回ってきていた。
直線だろうと蛇行だろうと、それはもうぴったりと。
何コレRPG!? と混乱し、そしてずっと張り付き続ける存在感に恐怖していった。やがて恐怖は疲労へと変換されていき、そして今に至る。
最後にどうしてこんな傾斜を選んでしまったのか。そう後悔するサティリナの後ろで男が懐から銀の懐中時計を取り出した。
「……時間か」
そう言うとパチンと蓋を閉じ、影でサティリナを覆った。
***
「何故食わん」
そう不服そうな男から言われるが……
「だって疲れた」
としかサティリナは答えられなかった。
時は進んでいつもの昼食後のデザートにて。
いつものように増やされたデザート皿を前に、むっと顔を顰めているサティリナだがその瞼はもうかなり重い。
久々に全力疾走した所為か、身体は食事よりも睡眠を求め始めている。
「殿下。もしお辛いようでしたら先にお休みされてはどうでしょう」
エルリアに優しく促され、サティは「うん」と小さく頷いた。
「起きてから食べる……」
「かしこまりました」
優しくエルリアに誘導され、石造りの長椅子に横になる。
今日は予め持ってきてくれていたらしいクッションを枕に、「お休みなさいませ」というエルリアの言葉を聞きながらサティリナはすぐに寝入ったのだった。
その後、起きたサティリナはきれいにデザートを食べ切った。
どうだ! と胸を張るサティリナに対し、それを見ていた男が今度はお茶のお供に用意されていたクッキーを追加しようとして、結局サティリナを怒らせていたのだった。
~~~~~~
今日、アイツがまた新たなイジメ方法を学んできた。
どんだけ変な走り方してもずっとぴったりくっついてくんの。怖くね?
恐怖からずっと走り続けてたけど、よく考えたらそれって4分間ぐらいずっと走ってたってことだよね??
この子供の歳で……私ってすごくね??
おかげでデザートは食べれたけど、睡魔もすごかった。
アイツが増やしてきた分も全部食べきってドヤったらムカついたのか、今度はおやつのクッキーまで増やそうとしてきた!
今も足パンパンで痛い!
明日までに治るよう、今日は念入りにマッサージしとこう……