日記183日目
ロゼライアの月23日。
今日も朝から爽やか!
聞いてた通りここら辺って夏は過ごしやすいみたい!
もう土も乾いてるみたいだし、これなら転んでもそんなに汚れないと思う。
……にしても昨日のあれってなんだったんだろ。
昨日の日記読み返しても、相当怖かったのか
アイツ、怖い
しか書いてないし……いや、ホント怖かったけどさ。
前と同じようにアイツが急に背後に来て、でも私はアイツが「開始」って言う前になんとか気づけた! あれが気配を読むってことだよね!?
気づいて、慌てて逃げたんだけど…
アイツは間も空けずにすぐに追いかけてきた。
しかもやたら速くて、たぶん1分もしないうちに捕まった。最短記録は塗り替えられなかったから良かったけど……いや良くないけど!!
しかも捕まえた私をアイツがずっと無言で睨んでくるの。
いつも無表情だからわかりづらいけど、あれは絶対睨んでた。
何言ってもダメで、クロエがお昼のために呼びにくるまでずっとだった。
あれで人に見られ続けることの苦痛を知ったわ…
お昼の後もずっと睨んできてたし、かと思えば突然また「笑え」って言ってくるし!
だから面白くもないのに笑えるかー!!
「殺すぞ」って言われて剣向けられて笑える奴いるかーーー!!
アイツホントバカなんじゃないの!?
そして再び無言の睨みタイムの始まりである。
「「…………」」
無言で男とにらみ合いながら、サティリナは本日のハイライトを脳内放送していた。
今日は真正面から向き合っていた。
そこまでは雨季の前から変わらない光景だった。その後、男が時計を取り出して時間を確認すると同時にサティリナも時計を見た。……これも変わらない。
いつも男は秒針がきちんと真上に来た段階で勝負を始める。
だから予め十五秒前にサティリナは時計を懐にしまい、開始の合図が出た瞬間に走り出すことを常としていた。
体内時計で秒読みしながら、じりじりと徐々に後退していたサティリナ。
『開始』
そう男が淡々と言い放った瞬間、一気に踵を返して地を蹴った。が――
『わっ』
瞬間、背中をぐんと引っ張られ、一気に地面が遠ざかった。――ハイライト終了。
……これが、男の言っていた『覚悟しろ』と言うことなのだろうか。
もうハンデとして時間ももらえないということなのだろうか。無理ゲーじゃないかこれ。
今もまだサティリナの背を男が鷲掴んだ状態であり、地面がもの凄く恋しい。
男は昨日同様何故か視線の高さまで持ち上げ、じっとサティリナを睨み続けていた。しかも痛いほどの沈黙でかなり居た堪れない。
「ま、負けました……」
「…………」
一応敗戦宣言してみるが、それでも男は無言だ。
どうしよう。このままでは顔面に穴が開きそうな気がしてきた。
「笑え」
ようやく喋ったかと思えば、いつもの無茶振りであった。
もう反射のような速度でサティリナは苛立った。
「だ・か・ら!! 何もないのに笑えるわけないでしょ!?」
「何もなくともお前は笑っている」
「どこでよ!?」
自分はそんな精神異常者になった覚えはない。そう真っ向から睨み返した。
「死にたいのか?」
「んなワケあるかああ!! ああもういいわよ!」
吐き捨てるようにそう言い、サティリナは自分の手で両頬を横に引っ張った。
「これへいーれひょ!?」(これでいいでしょ!?)
「貴様……」
きちんと意図を理解してくれたらしく、男が少し不機嫌になった。
ざまあ見ろ! とサティリナは頬から手を離し「ふん!」とそっぽを向いた。
投げるなり落とすなり好きにすればいい! そう自棄になっていたサティリナであったが、男はそのどちらでもなく静かに地面へと下した。
「え……」
流石にその行動には驚きを隠せず男を見れば、丁度屈むところであった。
いつの間にか男の顔からは不機嫌さが消えており、目が合った男の右手がそっとサティリナの頬に触れた。
一体、どうしたのだろう。もしかして自分を労わって――
ぎゅう。
「いっ!?」
そんなはずもなく、一気に走った頬の痛みにサティリナが顔を歪ませた。
頬が千切れんばりに引っ張られ、慌てて男の手を外そうと手で抑えた。
「い、いはいいはい~~!!」(い、痛い痛い~~!!)
ペシペシと力の限り叩くが痛みで上手く力が込められず、男の手には全く効いていない。
自分で抓るときよりも力加減のなっていないそれはサティリナを泣かせるのには十分であり、痛みからポロポロと涙が勝手に零れ始めてしまった。
その一粒が男の手に掛かったとき、ふっと急に頬から手が離れた。
「うぶっ!?」
しかし今度はその片手の指だけで両頬から圧を加えられ、変形した口から変な声が出た。
「プッ」
突然のことに混乱していれば目の前からそんな噴出したような声がして、はっと見れば男が俯きながら肩を震わせていた。
お前が笑うんかい!! っていうか……!
幸い、笑っていたためか男の拘束力はそれほどなく、サティリナは一歩後退することでその手から逃れた。
未だ涙の伝った顔のまま、男を睨み大きく息を吸う。
「お、おじさんのバカーーーーーーっ!!!!」
悲痛な怒りの声が、夏の空に響き渡ったのだった。
~~~~~~
マジでアイツ腹立つんですけど!?
前から私をオモチャ扱いしてたけど、今日は更に酷くなってた!!
しかも昼食もデザート押し付けてきたし!
そんなに食べれないから「無理!」って言ってんのに「食え」って言って勝手にお皿に乗せてくるし!
そのくせ私が食べたかったフルーツは目の前で食べるし!
その後同じのくれたけど、それ食べて「おいしいね!」って言ったら変なもの見るような顔になったし…!!
私の笑顔が気持ち悪いなら「笑え」って言うなよ!?
アイツホントに何がしたいわけ!?