日記159日目
リリベルの月30日。
超ツラかった…!
まさか自分でもあんなに風邪が長引くとは思ってなかった。
今もまだ咳はしてるし鼻も出てる。
お姉ちゃんが心配するのも分かってる。
でもなんとかしてアイツに会わないと…絶対に怒ってるだろうし。
それで次に行った瞬間に殺されたくもないし。
だから小雨の今のうちにぱっと行って、ぱっと帰ってくるつもり。
アイツもさすがにこんな中途半端な状態の私と勝負したくないでしょ。
ない、よね??
小雨の中、久々に会った男は見事に不機嫌だった。
ここ数日無断欠席していた事に対する怒りであることはわかっている。しかし自分は動けない程に病魔に苛まれ、そして今日ようやく外に出れたのだ。
そう心の中で言い訳をするがこの男にそんな容赦は通じないということも分かっている。
どうせ口を開けばあれこれと言われ始めるに違いない――
「帰れ」
獣が唸るような声でそうきっぱり告げた男に、サティリナは自分の目が丸くなっているのを感じながら動けなくなった。
……この男は今何を言ったのだろう。人語だったけかそれ。
自分は来た瞬間から『軟弱』だの『濡れ鼠』だの罵倒されると思って身構えていたのに思わぬ方向から攻撃を食らってしまった。
「……え?」
ようやく何とか声に出してみた言葉も、言葉というよりは一音だけだった。
疑問符を飛ばしたサティリナを他所に男はすぐに踵を返した。
「……雨季が終わったら、覚悟しろ」
それはある種の死刑宣告なのかもしれないが、言葉だけ聞くと『次は容赦しないんだからね!』という小悪党の捨て台詞のようにも聞こえてしまう。
いや、子供である自分に対しても容赦と言うものを知らない男だ。ここは前者で言葉の通り雨季が終わったら今にも増して勝負が厳しくなるということだろう。
でも……『雨季が終わったら』??
「ど、どういう……」
意味が分からず尋ねてみたが、男は「フン」と鼻を鳴らして去っていってしまった。
どうやら今日の勝負は行わないようだが……一体全体どうしたというのだろうか。
そんなサティリナの疑問に答えてくれたのは男と入れ違うようにやって来たクロエであった。彼は屈むと苦笑を交えながらサティリナを見た。
「サティ様。お体の方はもう大丈夫なのですか?」
「え? あ、うん……――えっ!?」
思わず頷いてから、その言葉がまるで自分が風邪で寝込んでいた事を知っているかのようなものであると気づいた。
クロエを二度見すれば「噂で聞きました」と答えを貰ったが……何か腑に落ちない。
「雨季の間はサティ様も自由に動けませんし、何より今回のようにお体を壊されるのは良くありません。
ですので雨季が終わるまでは、追いかけっこもお休みになりました」
「え……えええっ!?」
クロエの言葉に疑問を抱いていたが、それ以上の衝撃で一気にどこかへ吹き飛んでしまった。
まさかの雨天中止のお知らせである。
思わず男の背を視線で追いかけたが、既にかなり離れていた。
明日は雨なのでは、と思ったが昨日も今日も明日も雨である。雨季だし。
「槍が降る……!!」
「ふ、降らない様に祈りましょう」
どうやらクロエからしても男のこの判断は珍しいらしい。
驚愕に震えるサティリナに引きつった笑みを向けていた。
「はっ! そっかクロエが言ってくれたんだよね!?」
「え!? あー……そ、そう、です、ね?」
男が自らこんな判断をする訳がない。
だとすれば自分を思って進言してくれた者がいるはず。そこまでを考えたサティリナはクロエを見た。
どうやら当たっていたらしいのだが、何故か少し気まずそうにクロエが視線を逸らした。
「クロエ?」
「…………」
サティリナとしてはありがたい進言なのにどうして逸らされるのか。
そう思ったが思い出せばこの勝負には一年後の自分の命が懸かっている。大事な勝負が雨季という理由だけでごっそり減ってしまったことに対する罪悪感なのだろう。
確かに今の自分の戦績を見れば約一ヶ月といえど痛い。
しかしだからと言って無理をしてまた風邪を長引かせては本末転倒というものだ。
男の言葉があってもなくても、サティリナは雨季が終われば本気を出して取り掛からなくてはいけないと言う事であった。
「クロエ。私、雨季が終わったら頑張るね!」
お休みがもらえたからと言って遊んでいてはいけない。
きっちりその間にも筋力増強を頑張らなくては。そう意気込みを見せるため、クロエにしっかりと頷いてみせた。
「お、お大事になさって下さい、ね……?」
「うん!」
どこかぎこちない笑顔のクロエに幼い皇女はもう一度頷いてみせたのだった。
~~~~~~
まさかのお休み期間突入!!
ありがとうクロエ!
お礼を言っても言い切れないぐらいに感謝してる!
でもクロエは私の大事な勝負回数を減らしたってことでちょっと落ち込んでた。
クロエのためにも雨季が終わったら万全に闘えるようにしないとね!
がんばるぞー!