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作品オリジナル小...転生皇女の... >日記101日目

日記101日目

ブローフの月2日。

今日もクロエは庭園に来てる。
前にお姉ちゃんを助けてから他の妃たちが変なマネし出して、みんなクロエの前で「気分が~」とか「具合が~」とか言ってバタバタ倒れてんの。
このまま進んだら、そのうち「宮で謎の奇病が発生!」みたいなことになりそう。いや、元々ここの人たち頭沸いてるみたいだけどさ…

最初は相手にしてたクロエも、流石に人数が多くなってきたからそこら辺のメイドとかに任せて逃げるようになった。私も、倒れそうになった妃に対しては「はよ帰れ!」って意味を込めて石を投げるようになった。
丁度腕の運動にもなるし、妃たちも驚いて面白いから一石二鳥かも。

あ、ちゃんとその辺の壁とか床に当ててる。
ケガとかされて大騒ぎされても面倒だし。

あと、お礼でクロエの側に置いた花束だけど、今はお礼って言うより同情みたいな感じで置き続けてる。
だって毎日毎日妃とかオバサンに絡まれてて、見てるだけでも大変だってのがわかるから。

なんか最近は皇帝が相手にしてくれないらしくて、みんな男に飢えてるらしい。こわい。
そりゃクロエは騎士だし顔も良いから気持ちがわからなくもないけど……クロエは仕事で来てるんだから性欲に巻き込むなって思う。

最近は本当に参ってきてるのか、昨日なんて花束見つけた途端に拝み出してた。

お姉ちゃんに頼んでリラックス効果のあるお花を教えてもらってて良かったー。
毎朝お姉ちゃんと散歩のときに新しい花とか教えてもらってるから、もう少ししたら春の花はコンプリートしそう!

クロエ、早くお仕事終わるといいね。
ここは男に飢えた女共の魔窟だから……来ないほうがいいよ。

~~~~~~

そんなこんなで本日もクロエの慰労のために花を摘んでいた皇女は腰を浮かせた。
手の中には既に黄色と白の花が収まっており、既に茎の部分も他の花で縛って束にしている。

渡す物は準備した。あとはその本人を探すだけである。

その影を探そうと辺りを見回していた皇女は別の物を見つけた。
物陰から窺うその姿は――妃の一人だ。
少し近寄って、彼女の見つめる先を見れば……クロエがいた。

「近くまで行って、すぐに倒れ掛かって……」

ブツブツと今後の予定を確認しているようだが……それは後ろにてしっかり聞いてしまっている皇女が許さなかった。
今日も今日とてクロエにちょっかいをかけようとしている妃に『ご精が出ますね』と心の中で呆れ、そしてその手をドレスの裾へと伸ばした。

そっと掴み、息を吸い――今だ!!

「っきゃああ!?」

急に後ろから引っ張られた妃が悲鳴をあげ、驚いて後ろを見るが……妃に皇女の姿は見えてない。

怯えの見え始めた妃を尻目に少し離れた皇女は地面に落ちていた石を数個拾った。
大きく振りかぶり、妃の近くの壁目掛けて少し間を置いて投げる。

壁に当たった石がカツン、コツンと音を立てて妃の辺りで弾ければ――怪奇現象の完成である。

「きゃあ!? いやあああ!!」

悲鳴を上げながら一目散に逃げていった妃に小さく鼻を鳴らし、皇女は素早くその場を離れた。もう少しすればここに侍従を引き連れた妃が現れるだろうからここに長居は無用だ。

懲りないなあ、と二日前にも見た顔である事を思い返していれば、クロエがこちらを見ていることに気づいた。
そうっと近づいてみるが、その視線の先は先程妃がいたところへ向けられており、皇女を見ていたのではないとすぐにわかる。
きっと彼も悲鳴に気づき、一応確認のために見ているのだろう。……近づこうとはしていないようだが。

最近ずっとクロエを見ていて気づいたことだが、彼はどうやら面倒ごとが苦手で避ける傾向があるようだった。今もその面倒ごとが自分に降りかからないか警戒しているのだろう。
関わっても良いことはないのでそれが正解だと思う。

いつものようにクロエの足元に花束を置いた皇女は、気づかせるために彼のマントを小さく引っ張った。すぐにクロエがはっと我に返り、足元に視線を落とした。

「ああ、やっぱり」

そう呟きながら、クロエはふわりと微笑み、ゆっくりと屈むと花束をそっと手に取った。
とても嬉しそうな表情を見ると、贈った方としても嬉しくなる。
もうすぐ彼は立ち上がり、いつものように仕事に戻るのだろう。そう思っていた皇女であったが、この日のクロエは少し違った。

「ありがとうございます。殿下」
「っ……!」

それは明らかに贈り主が皇女であるとわかっているような口ぶりであった。
慌てて足音を立てないようにクロエから離れる。

「ここ数日の奇怪な現象……全て殿下が起こされているのですよね?」
「……」

そんな言い方をされると、自分が妖怪のように思えてしまうので止めて欲しい。

「お恥ずかしい話ですが、アレ、もの凄く助かりました……」

一瞬にしてクロエの表情に影が差し、一気に老け込んだように見えた。
本当に末期なのでは、とある意味心配し始めた皇女の前でクロエは独りでにつらつらと自身の事を語り出した。

本当は派手な化粧をしている女性より、深窓の令嬢を思わせるような清楚な女性の方が好みだとか、上司から無理難題をここ数日ずっと押し付けられており、それをこなすのに苦心し続けているだとか……

「――ですので、こうやって殿下がくれるこの花だけが唯一の癒しで……!」

そう若干震えながら昨日と同じように花束を掲げて祈るような姿勢になってしまったクロエを前に、皇女は彼にどうすればいいのか考えあぐねていた。

レーティアを助けてくれたときは颯爽とした騎士然としていたというのに、今の彼はあまりにも痛々しい。更に付け加えるなら傍から見れば突然独り言を言い始めた挙句小さな花束を掲げて祈り始めた奇行者だ。

一騎士の激しすぎる落差に固まっていた皇女であったが、ふと遠目に赤いドレスが見えた。

あれは……宮のラスボス・アーグレフト妃だ!

今だ傷心ゆえかクロエは彼女の気配に気づいている様子はなく、このままでは確実に奇行をダシに彼女に捕まってしまうだろう。
なんとなくだがそれが一番最悪の事態だと思った皇女は意を決して、未だ祈り続けているクロエの袖に向かって手を伸ばした。

「く、クロエ! こっち!」
「えっ」

顔を上げたクロエが目を丸くする中、皇女はクロエの袖から彼の白手に包まれた手に持ち替え、その手を更に引っ張った。
未だ魔術は解いていないためクロエから皇女の姿は見えない。けれど声でわかるだろうと声を潜めながら尚も彼の手を引っ張った。

「早く! オバサンが来る!」
「!」

思わずいつも使っている蔑称の方でアーグレフト妃を指してしまったが、それでも雰囲気からかクロエには伝わったらしい。
すぐに腰を上げた彼の手を引っ張り続けながら、あまり妃たちの来ない場所へと頑張って誘導した。

そこは満開の花の咲き乱れる生垣の間なのだが、妃たちも侍従たちも生垣に飛んでくる虫・『ベッダ(蜂に似た虫で刺されると腫れる)』を恐れてなのかあまり近寄らない。
観察すればすぐわかるのだが、ベッダが飛んでくるのは朝のうちであり、正午を過ぎると巣に戻るのか餌場を変えるのかあまり飛んでこない。そして彼らは香水のような強い匂いに反応するので、付けていない状態で昼以降であればこうして花に囲まれることも可能なのだ。

クロエを誘導した皇女は手を放すと「屈んで!」と指示を出した。
さっと素早く屈んだクロエを見て、ようやく一息ついた。同時にこのままでは会話が成り立たないと思い、魔術も解いておく。

「殿下……!」

すっと目の前に現れた皇女にクロエが目を輝かせた。

まるで迷子の子犬がようやく飼い主に会ったかのように目を潤ませるクロエ。耳と尻尾の幻影まで見えそうな騎士に顔が引きつりそうになった。

ここなら見つからない。そう説明しようと口を開いたが、皇女よりも彼の方が早かった。

「申し訳ございませんでした!」

若干潜められた謝罪の言葉に、「え」と固まった。

「先日は皇女殿下のご事情も踏まえず、殿下を怖がらせてしまい……!」

それはもう十日以上前のことだ。
確かに彼は皇女に『皇帝陛下が呼んでいる』と伝えて怖がらせたことがあった。
しかし既にかなりの時間が経っていることや、冷静になって考えれば彼はただ皇帝からの言伝のようなものを自分に伝えただけだったのだ。今もまだそのことで警戒している部分も否めなくはないが、少なくとも彼に非はなかったのだと理解していた。

「本当に、申し訳ありませんでした!」

もう一度そう言い括り頭を下げたクロエに、一呼吸置いて「もういいよ」とできるだけ優しく返した。ゆっくりと顔を上げたクロエに出来る範囲の笑顔を見せる。

「クロエは皇帝陛下に言われて呼びに来ただけだったんでしょ?
 なのに『わー!』とか言って、私の方こそごめんなさい」
「そのような……! 殿下が謝られることなど何もございません!」

皇女が頭を下げれば、クロエが慌てたように少し近づいた。
ゆっくりと顔を上げて近くなったクロエを真正面から見つめた。

「じゃあ、これで仲直り?」
「っ、そう、ですね……」

ぎこちなくはあったが頷いてくれたクロエに自然と顔が綻んだ。
それを真正面から見ていたクロエが小さく息を呑み、両手で突然顔を覆った。

「お、俺……生きてて良かった……!」
「クロエ!?」

本当に彼は末期なのではないだろうか。
たかが子供一人が笑っただけで生死に関わる謎の感動を覚えるとか……不安しかない。

本気で心配し始めた皇女の前でクロエが素早く両手を退けた。

「殿下! 明日もお会いしてくださいますか!?」

その勢いのある動きに慄いてしまったが、何とか「う、うん」と頷き返すことは出来た。

「では明日、またここでお会いいたしましょう!
 日ごろの花束のお礼にずっと渡したかった物があるのです!」
「うん……わかった……」

クロエのキラキラと輝く目に圧倒されながら頷けば、「それでは私はこれにて!」と一礼して来たときよりも軽い足取りで帰っていったのだった。

「あ、アニマルセラピーみたいなもの……かな?」

そう一人呟いた皇女を残して。

~~~~~~

今日のクロエは謎だった。

わかっていることは、とりあえずここの勤めが大変でそろそろ危ないってことぐらい。
明日は何かくれるらしくて、よくわかんないけどもう一度会うことになった。

精神が不安定な人の相手って、よくわかんない。
とりあえず、子供に癒されるのはどうかって思うけど少しでも会話してクロエが喜ぶなら少し協力した方が、いい…んだよね?

だよね?

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カッコイイのか良くないのかわからない人を書くのって好きです。
それだけ弄れるとも言う……

>20200602

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