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日記79日目

チールの月11日。

昨日お姉ちゃんに会いに行って、一緒に夕食食べた。
帰りには朝ごはん用のパンもくれた。

庭園で見つけたきれいな白い花を上げたら、お姉ちゃんが凄く喜んでた!
やっぱり美女の笑顔はいいね!

今日はその花を見つけたときに見つけた、垣根の穴の先に行きたいと思う。
たぶん、この宮の庭園はあらかた調べ終わったと思うし、そろそろ探索範囲を広げても良いんじゃないかなって。

もちろんお姉ちゃんには内緒で!

~~~~~~

「んー……頑張れば通れなくはないよ、ね?」

そう一人呟いた皇女がいるのは、庭園の端の垣根の前だ。
目の前には子供一人であればなんとか通れそうな穴が開いており、その穴を覗き込んでいた皇女は一度立ち上がり、垣根に沿うように視線をずらしていった。

ずっと続く垣根の終わりは見えない。
途中で木が遮っていたり、茂みが視界を塞いでいることもそうだが、そもそも庭園自体がかなり広いのだ。
もう一度穴に視線を戻した皇女はうーん、と唸った。

「確かあっちに行くには、見張りの騎士の許可がないとダメだったよね」

それは垣根を一度辿った際に知ったことだ。
垣根には出入り口のように門がある場所があり、その先は植物のアーチと共にどこかへと続いているようだった。

前に門が開閉しているのを見たときは、その日の『お相手』である妃の一人が目隠しされた状態で侍従に案内されているところだった。
宮の侍従も門の先には行けないようで、門の先に待っていた別の侍従が妃を連れて行ったのを覚えている。

あの門の先はどこに続いているのか。その時はその好奇心を抑えるのでいっぱいいっぱいであったが、穴を見つけた今ならそれを確かめられるのでは。
再び疼き出した好奇心に皇女はにんまりと口元を上げ、「よし!」と穴を見て頷いた。
この穴を潜る準備は出来ている。そのために今日は汚れても良い服でここまで来たのだ。

早速、調査開始である。

穴は思っていたよりも大きく、垣根を越えれば次は鉄のような金属の床板の下に続いていた。渡り廊下のようなそこを越えればまた垣根が現れ、その先の顔を出した皇女は顔を輝かせた。

「こっち、結構キレイ!」

それは同じような庭園でも、あちらは草木を楽しむためか自然的だったのに対し、新たに見つけた庭園は煉瓦で舗装された道や彫刻のある噴水など人工物が主とされていた。

周囲に人がいない事を確認した皇女は穴から這い出た。
服についた土を払える範囲で叩き落とし、周囲を警戒しつつ噴水に近づいた。
噴水の中はいつも清掃されているのか落ち葉ひとつなく、透明な水で満たされていた。

「わっ、冷たい!」

手を浸せば循環式であっても水が冷えていた。
手と顔を素早く洗った皇女はすぐにマントについているフードを被り、集中して“かくれんぼ”を発動させた。
息を殺して足音も極力立てずに庭園の中を散策する。

自分が住んでいる宮と同じような建物が遠目に見えたが、建物があるということは人がいるということでもある。
そちらには近づかないようにしつつ、小さな足で二つの東屋を過ぎたときだった。

ヒュ、と風切り音が聞こえた気がした。

「こっち……かな」

今は無風だ。時折遠くで鳥の鳴き声が聞こえたりはするが、それだけだ。
人工的な音だとはわかりつつも、その音の出所を確かめておこうと思った。

足音を立てないように忍ばせ、そろりそろりと音を辿るように近づいていく。

すぐ近くまで来た気配を感じて皇女は近くの生垣に身を潜ませた。
そこからそうっと顔を覗かせたとき、一際大きくヒュン!と音が鳴った。

そこは同じく煉瓦で舗装された道の上。
一人の青年が脇目も振らずにひたすら剣を振り続けていた。

日の光を散らすのは、白く輝く銀の髪。
その目は細められてよく分からないが、顔はとても端整だ。ただ、整いすぎているともとれるその顔はどこか無機質のような、冷たい印象を持っていた。
服は白いシャツを胸元まで開け、黒い革製のパンツに黒のブーツと言う、装飾のない格好であった。

微かに滴る汗を含めて、それを『色香』と言うべきか『だらしない』と評するべきか、悩みどころである。

もう一度大きくヒュン! と空を切った剣を目で追いながら目の前の見知らぬイケメンに付いて考えていた皇女であったが、はっと我に返った。
音の出所はもうわかったのだ。ここに長居する必要はなく、早々に立ち去るべきだと思ったのだ。

もし新たに見つけたこの庭園が自分の知る庭園と同規模の広さを持っているなら、子供の足での探索はかなりの時間を要するだろう。
新たな誰かと関わる気もなかったため、すぐに顔を引っ込めた。そして離れようと身を翻したときだった。すっと自分を含めて影が差し、間髪入れず背に衝撃が走った。

「ふぎゃ!?」

容赦なく背に圧力が加えられ、小さな体は石畳に打ち付けられた。
何とか顔や頭は打たなかったがそれでも他の打ったところが痛い。もの凄く痛い。

「何だこれは」

痛みに呻く間もなく、耳に届いた声にはっとした。

もしかして、誰かにバレてしまったのか。
いや、今確かに自分は声を上げてしまったが、まさか魔術も同時に解けてしまったのだろうか。慌てて再び念じようとしていた皇女は気づいていなかった。

その背に手が伸ばされていることに。

突如ぐい、とマントごと服が掴まれ、そのまま体が一気に後ろへと引っ張られた。
呆気なく地面が離れ、気づけば一メートル以上離れてしまっていた。

「うわああ!?」

その高さよりも状況に自分の顔から血の気が引いたのがわかった。

「子供?」

冷淡な声が近くに聞こえ、同時に自分を覗き込む二つの蒼い光に気づいた。
焦点が合い、それは光ではなく目で、顔全体が見えて先程の男だと認識した。
どうして?と思ったが、男が何かの拍子で自分に気づき、近寄って背を掴んできたことはわかった。

男の冷淡で無表情な顔にもそうであったが、何より『見つかってしまった』という状況に慌てた。

「は……放して!!」

咄嗟に口を突いて出たのはそんな言葉だった。
同時に離してもらおうと手足をばたつかせるが、男の顔がそれを避けるかのように遠ざかっただけで背中の感覚はなくならない。というか逆に強くなった気がした。

「騒がしい鼠だな」
「ね、鼠だったら触ってると病気になるわよ!?」

男に侮蔑されたことに怒りはあるが、それよりも解放されるほうが先決だ。
だから怒りを飲み込んでそう言えば男が顎に手を添えた。

「確かにな」

そう言うが早いか背の圧力がなくなり、小さな体に重力が加わった。

「え」

目を丸くした自分の体はすぐに地面に吸い寄せられてしまう。
再び全身に痛みが走り、ぐわんと回る頭で自分が落とされたことに気づいた。

痛い。でも早く逃げないと――

しかしその考えも虚しく、追い打ちのように背に容赦のない圧力が加えられた。

「うぐっ……げほっげほっ!」

肺が圧迫され、耐え切れなかった気管支が反射を起こす。
咳き込みながらもその圧力の元を見れば、それは冷たい目で見下ろす男の足であった。

子供を落として、更にそれを足で踏むなどかなり凶悪な所業である。
その事実に戦慄しながら、それ以上に仕打ちに対して怒りを抱いて男を睨んだ。

「これで文句あるまい?」
「っ……大有りよ!!」

ドMでない限りこんな状況を願うヤツがいるものか。
地面に這いつくばった屈辱的な姿勢のまま、できる限りの怒りを込めて男を睨み返した。

「……泣け」
「っ……こ、断る!!」

無表情で何を言い出すかと思えば血も涙もない命令であった。
背に圧し掛かる足に力が込められ、息苦しさが増したがそれに屈して泣き出すのも嫌だった。

何故今遭った男に突然踏みつけられた挙句、その目の前で無様に泣かなければならないのか。見つかってしまった自分の失態とは言え、こんな最悪な状況になるとは思っていなかった。

今度からはもう少し慎重に行動しよう。そう固く決心した皇女の目の前に、スラリと抜かれた白銀が煌いた。

「殺されたくなくば、泣け」

音を立てて血の気が引く。
それはどう見ても先程男が振るっていた剣であり、その剣先が真っ直ぐ自分に向けられているのだ。

しかし血の気と共に涙も引っ込んでしまったらしい。
刺されればきっと痛いのだろう。皇帝にまだ出会ってもないのにまさかこんなところで死に掛けるとは。誰が予想しただろうか。

そんな事を今考えている余裕などなく、皇女は拳を握り締めると出来るだけ平静を装った。

「ど、どうせ泣いたって殺すんでしょ……!」

けれどやはり若干声は震えて出て行った。

「さあな。俺の気分次第では助かるかもしれんぞ」
「気分次第で子供を殺すとか、最低ね!」

そこまで言い切ってはっとした。何故自分から死亡フラグを引き寄せているのか。
男を見上げれば鋭い眼光が細められ「ほう」と地を這うような声が聞こえた。

やばい。殺され――

「失礼いたします!」

そこに遠くから誰かの声が聞こえ、男の殺気が和らいだ。
同時に圧し掛かっていた背への圧力が軽減されたのを感じた。

今しかない!

全身に力を込めて皇女は足の下から“男のもう片方の脚がある方向へと這い出た。

「このっ!!」

当たるとは思っていない。きっと避けられる。けれどそれでいい。
視界の端に映った長い脚目掛けて自分の足を振れば、男が避けるために距離を取った。

今だ!

その隙を突いて起き上がり、そのまま目の前に見えた新たな男に向かって走り出した。

「え!?」

茶色の髪とオリーブ色の目をした、騎士服に身を包んだ男は皇女を見て驚いていた。
残り数十歩手前で“かくれんぼ”を発動させるために念じた。

「捕まえろ」

背中から男の声が聞こえたが、騎士の手は皇女に伸びては来なかった。

「えっ、ええ!?」

彼の側を通り過ぎるとき、そんな困惑した声が聞こえた。
きっと彼は皇女を見失ったのだ。魔術の力によって。

そのことに安堵しながら、ワザと遠回りな道を選んで走り続けた。
時々足がもつれそうになっても、肺が悲鳴を上げてもとにかく走り続けた。

ここが自分の知る庭園と同じ作りで良かったと思う。
更に言えば靴音は響いてしまうが舗装されている道の方が走りやすい。
方角だけ見失わないように注意を払いながら、時間をかけて穴までたどり着いた。
人が来る前に穴の中に潜り、既に疲れきって感覚がなくなりかけている手足を必死に動かした。

穴から這い出たところで、全力を使い果たした。
そのまま穴の側で仰向けに倒れると咳き込みながら新鮮な空気を目一杯吸い込んだ。

「し、死ぬかと思った……!」

新たに見つけた場所を探索して、まさか初回から死に掛けるとは。
自分の魔術を過信しすぎた点も否めないが、それ以上に今だにあの時の白刃の輝きが脳裏を過ぎり、胃の底がぞわりと震えた。

体力が回復するまで皇女はその場で寝そべり続け、やがてふらふらとした足取りで部屋へと戻っていったのだった。

~~~~~~

う、腕が痛い。いや、全身痛い。

ホントは今書くのも辛いけど、明日になって同じ二の舞にはなりたくないから要点だけ書こうと思う。

・新しい場所に行った。
・変な凶悪イケメンがいた。
・↑子供落として踏みつけるとか何アイツ!?
・しかも剣まで抜いて「泣け」とか脅してきたし!!
・もうアイツがいるなら絶対あっちに行かない!
・新しい場所からだったら、なんか抜け道とかあるかなとか思ってたけど逃げる前に死んじゃったら意味ないし!

今日はアイツの所為で凄く疲れたからもう寝る。
手と膝を擦りむいちゃってるけど……明日理由考えて、お姉ちゃんのとこに行こう。

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行動力の化身。

>20200523

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