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日記55日目

リージアの月16日。

この世界には曜日がないんだって。
月ごとの日数は決まってるから、末日まで数えていくだけだってお姉ちゃんに教えてもらった。

だから休日とかは人それぞれで、みんな休みたいときに休むんだって。
自由だなー。

最近は雪も降らない日が多くなってきて、少しずつだけど気温も上がってきてる気がする。

お姉ちゃんも「もうすぐ春になる」って言ってた!
早く庭園のお花とか見たいなー! 春が毎日待ち遠しい!

でも、雪が溶けたら今まで体拭いたりするときに使ってた雪解け水がなくなるんだよねー。

どうしよう。

あ、最近ようやく自分ひとりでも窓が開けられるようになってきた!
このまま頑張って腕立て伏せとか続けて、筋力増強するぞー!

~~~~~~

「雪、少なくなってきたね」
「そうね」

手を繋いで歩いていたレーティアと皇女は、だいぶ地面が見えてきた雪の庭園を見渡し、顔を見合わせた。
最初は微笑んでいたレーティアであったが、ふと表情を少し曇らせた。

「もうじき、他の妃たちも東屋まで出るようになるわ。
 そうなればこうして自由に出歩くことも難しくなってくるわね……」
「えっ、そうなの!?」

驚く皇女にレーティアは屈んで視線を合わせた。

「私も、ここではあまり歓迎された者ではないもの。
 それにあなたも……」
「あ……そっか」

レーティアの言葉に皇女は『自分は皇帝に狙われているのだし、妃たちも嫌悪はしても相手にしないのでは?』と思ったが、それよりもレーティアが標的になっては大変だ。だから彼女の言うように庭園を散策することもなくなってしまうのだろう。

肩を落とす皇女に、レーティアは安心させるかのように優しく微笑んだ。

「少しだけ待っていて。
 私が必ず安全な場所を見つけるから」

その時だった。

「そこのあなた。何をしているの?」

そう突然声がかかり、レーティアが弾かれたように皇女をローブで隠しながら立ち上がった。閉ざされた視界に驚くことなく、皇女がそうっとローブの下から覗けば侍従に日傘を差させているドレス姿の貴婦人が立っていた。

歳は十代後半ぐらいだろうか。
元はもう少し愛らしい顔立ちなのだろうが、釣り目のように見えるアイラインや浮いているようにしか見えないチークなど濃い化粧の所為で台無しだ。
更に言えば格好つけて口元を羽で出来た扇で隠しているため、悪役じみた印象さえ受ける。

声を張ってレーティアを睨みつける貴婦人――妃に、レーティアはゆっくりと歩み寄った。その歩調は努めて平静を保とうとしているようだが、彼女の纏っている緊張感が伝わり、ローブの中の皇女も彼女のスカートを掴みながら音を立てまいと静かに歩いた。

「……」
「あら。誰かと思えば『篭城の皇女様』じゃないの。
 ずーっとお部屋で泣き寝入りをしていたと思っていたけれど?」

無言のレーティアに対し、妃が嫌味を前面に押し出して意地の悪い笑みを浮かべた。

「一体こんなところで何をしていたのかしら。
 陛下のお声が掛からないからって、雪に八つ当たりでもしていたの?」
「……ただの散歩よ。
 別に私は皇帝陛下の目に留まろうとは思っていないわ。
 というか、お声掛けがないのはあなたも同じじゃないの?」
「う、煩いわね賠償金代わりのクセに!
 私はもう明後日に閨に上がることが決まっているのよ!」

妃の言葉にレーティアが小さく息を吐いた。

「そう。良かったわね。
 じゃあ精々“アンバルストの太陽”の機嫌を損ねないことね。
 でなければあなたも“帰らずの妃”に名を連ねることになるわよ」
「い、言わせておけば……!」

妃が口元を覆っていた扇を閉じ、握り締めたのを見てレーティアは反射的に片足を引いて皇女を遠ざけていた。

しかしその動きで妃はそこに何かがあるのだと勘付いたようだった。

「な、何?
 あなた、そこに何を隠しているの?」

しまった、とレーティアと皇女が同時に思っている間にも、妃の口元に意地の悪い笑みが戻ってきていた。

「今すぐにそこにあるものを見せなさいよ」
「……何も隠していないわ」
「あら。見せたくないほど、いかがわしいものなのかしら?
 いいから退きなさい!」
「っ」

妃の扇がレーティアに当たり、レーティアが痛みによろめいた。
その動きに皇女が付いて来れず、覆っていたローブが翻りながら皇女を日の下に晒していく。

もしここで皇女の存在が見つかれば、その非は間違いなくレーティアに向けられるのだろう。そしてそれはどうあっても良い方向には転ばない。

彼女のためにも見つかりたくないという思いが強くなる中、皇女はただ口に手を当てて息を殺すことしか出来なかった。

目の前に見えた鋭い妃の眼光が、真正面から皇女を捉えている。

終わった。この妃は一体自分をダシに何を言うつもりなのか……

「「「……」」」

ドクドクと鼓動が早鐘を打つ中、じーっと皇女を凝視していた妃の顔が、すっと引いた。

「何よ……何もないじゃない!」

彼女の言葉に、皇女は静かに目を見開いた。

この女性は一体何を言っているのだろうか。
自分は今もここにいて、普通に雪の上に立っているというのに……

まさか見たくないほどに嫌っている、とか?

訳のわからない状況の中、それでも声を上げるわけには行かずそのまま様子を見ることにした。

「――だ、だから言ったでしょう」

レーティアが僅かに乱れたローブを直しながら口を開いた。

「それより早く戻ったらどう?
 いま雪焼けしては、せっかくの機会も台無しになるわよ?」
「っ……! ふん!」

妃は鼻を鳴らし、憤った足取りで宮へと侍従と共に向かっていった。
その気配がなくなるまで睨み続けていたレーティアが、閉まった扉からゆっくりと振り返った。

「そこに……いるのよね?」

恐る恐る、と言った風に皇女に向かって手が伸ばされる。
けれどその動きはとても不安定で、目的地を見失っているようだった。

もしかして自分に触れようとしている……?

目の前にいるはずなのに、まるで見えていないかのようなレーティアに皇女は口に添え続けていた手を下ろすと彼女を見上げた。

「お姉ちゃん……?
 私、ずっとここにいるよ?」

まるで、急にレーティアと自分のいる世界が隔絶されたかのような、見えない壁が現れたかのような、得体の知れない不安が浮かび上がった。

そんなはずはないと否定したくて、皇女からその手を迎えに行った。
そっと触れればレーティアが小さく息を飲み、突然雪の上に膝を付くと皇女の手を引き、腕の中に小さな体を納めた。

「お、お姉ちゃん!?」

今まで抱きしめられたことはなくて、皇女は目を瞬かせながらすぐ隣にあるレーティアの横顔を見た。

相手が美女だからだろうか。
全身を包むような仄かな温かさにドキドキと胸が高鳴った。

今のこの状況では不謹慎だろうけれども、嬉しいと思ってしまう。

「……今すぐここを離れましょう」
「あ、うん……」

素早く離れたレーティアはそう言うと立ち上がり、皇女の手を引いてすぐに宮の裏手――皇女の部屋がある窓の元までやってきた。

離れてしまった温かさに少しだけ“寂しい”と思ってしまった皇女だったが、繋がれた手に自然と顔を綻ばせていた。

手を離したレーティアが再び皇女を覗き込んだ。

「あなた、ずっとあそこにいたの?」
「う、うん。ずっとあそこにいたよ?」

逃げも隠れも出来なかった。
なのに妃はもちろん、何故かレーティアまで皇女が見えないようなフリをし始めて訳がわからなかった。

「……魔術」
「え?」

ぽそりとレーティアが呟いた単語が、頭に入らなかった。
きょとんとする皇女の両肩にレーティアは手を置いた。

「よく聞いて。さっきあなたはきっと魔術を使ったのよ。
 その時のこと、何か覚えてる?」
「ま、魔術!?」

真剣な目でレーティアに問われるも、その前の単語に皇女はそれどころではなかった。
この世界がそんな神秘的なものの存在している場所だとは思っていなかっただけに、すぐに理解が追いつかなかった。

「え、ええと……
 あの人に見つかりたくなかったから、『見つかりませんようにー!』
 って凄く願ったら、えっと……その」

とりあえず、しどろもどろと伝えれば、レーティアが少し考えるように俯き、突然立ち上がった。

「じゃあ、今から私が後ろを向くから、同じように思いなさい」
「ええ!?」

戸惑う皇女を他所にレーティアは立ち上がると本当に背を向けてしまった。

詳しい説明もないままであったが、とりあえず言われた通りに皇女は先程と同じ状況を作ろうと口を手で塞ぎ、強く念じた。
程なくして、レーティアは振り返ると皇女の側に屈み、じーっと観察を始めた。

その目は真っ直ぐと自分を捉えており、皇女は本当に魔術が効いているかもわからないまま見つめられ続けた。

それは時間にしてどれくらいだっただろうか。
流石にじっとしている事に体が疲れ始め、皇女は恐る恐る口を開いた。

「……も、もういい?」
「ごめんなさい。もういいわよ」

ようやく解放された。
手を放すと同時に大きく深呼吸すれば、レーティアが優しく頭を撫でてきた。

その感触に自然と頬を緩ませながら、皇女は小さく小首を傾げた。

「魔術、使えてた?」
「ええ。
 あの時ほどではなかったけれど、さっきのあなたも薄くなっていたわ」

どうやらそれが自分の使っていた“魔術”であったらしい。

「うすく?」
「たぶんだけれど……
 相手の視覚を阻害して、自分を『見えなくする』魔術ね」
「しかくをそがい……
 えっと……かくれんぼで強い?」
「ふふ。そうね」

自分では見ることができないのでなんとも言えないが、どうやらそうであるらしい。

「あ、お姉ちゃんも魔術使えるの?」
「私は……あまり得意ではないの。
 使える人はそれこそ火を起こすのも水を操るのも、自由自在だというわ」
「へー! すごいねー!」

魔術の事を簡単に説明したレーティアは「さあ、もう戻りなさい」と皇女の体を抱きかかえた。いつもの窓から中に入り机の上に座って振り返れば、レーティアが皇女の頭を優しく撫でた。

「また、一緒に散歩に行きましょう」
「うん! またね、お姉ちゃん」

互いに笑いあい、レーティアは小さく手を振ると去っていった。

~~~~~~

今日は大発見があった!
なんかこの世界には「魔術」があるんだって!
それってあれだよね?魔法ってことだよね??

まさかのファンタジー!!

でも、それを使ったのは「私」だったみたい。

しかも「私」が消える?薄くなる?カンジの魔法だって。
お姉ちゃんが言ってた。

あれかな、マンガとかアニメとかで忍者が使うみたいな……
隠れる系の術ってことかな?

自分でやってみてもいまいちわかんない。
だって頑張ってみても、私が私を見ると手足はしっかり見えてるし。
でもお姉ちゃんも、あの化粧濃い人も私が見えてないカンジだった。

ってことはやっぱりそうだったってことなのかなあ……

あと、さらっと流されてたけど皇帝は毎日妃をとっかえひっかえしてる女遊びが激しい人みたい。

そりゃ皇帝って言ったら大金持ちだし?
顔すら見たことないパパンだけど、たぶんイケメン?なんだし?
女の人が放っておけない物件てのはわかるけどさー

男だし健全なんだろうけどさー

相手、我が子でも殺そうとしてる狂人なんだけど?
みんなそれでも良いのかなあ……やっぱ顔かなあ……

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