転生皇女の異世界日記
日記1日目
今日から日記をつけていこうと思う。
せっかくお姉さんが暇つぶし?にくれたんだもん。
ラクガキとかじゃなくて、ちゃんと使いたいと思ったから。
大体1週間前くらいかなー。
私は前世を思い出した。
前世は地球の日本出身で、平民。
裕福でもなければ貧民でもない、ごく一般的な家庭の生まれ。
他に特筆するようなことはない! ディスってないよお父さんゴメンネ!
そんな私はいつの間にか死んでいたらしくて、気づいたら小さな女の子になってた。
どうも生まれ変わったところは日本じゃなくて、なんかヨーロッパみたいな洋風世界。
英語でもドイツ語でもフランス語でもなさそうなよく分からない言葉なのに、やっぱりここの住人だからか意味も分かれば話すこともできる。ホント不思議。
そんな場所の、なんだか大きな屋敷?みたいなところに私は住んでる。
時々ドアを開けるとメイドが見えるし、貴婦人みたいなドレスの人も通ってて、最初はちょっと感動した。
でも、押し込められてるのは古くてボロい部屋だし、家具もベッドとイスと机だけだし、食べ物は時々思い出したかのように届けられるだけで、それもほんの少しだけ。
たぶんだけど「私」は捨て子とかそう言うのだと思う。だから名前も無いんだと思う。
それに服もボロボロで汚いものしかないし、話しかけようとしたらもの凄く嫌な目で見られるし。
アイツら嫌い。
お姉さんがいなかったら、私はきっと餓死か凍死ですぐに死んでたと思う。
私に食べ物をくれる優しい?お姉さんは金髪で、緑の目をしたとってもキレイな人!
本を読むのが好きみたい。
クールビューティーってヤツかな。横顔もとっても素敵だった!
今は冬だけど、「私」の記憶を見たら四季があるみたい。
あ、「私」の記憶だけど、見ようと思ったらその瞬間にふわっと浮かび上がるカンジなんだよね。マジ不思議。
引き出しを開けるような?浮かんでくるようなカンジで、でもちゃんと「本当なんだ」って思えて納得できちゃうんだよねー。
記憶が戻ったから、子供でも出来そうなこととかわかるし、思いつくけど…思い出したからこそ、今のこの生活にはちょっと耐えられそうにない。
だってご飯は美味しくないし、お風呂にも入れないし、寒いし。
子供はデリケートなんだから、お風呂ぐらいちゃんとしてって思う!
時々濡れたタオルを放り投げられるだけだし!!
しかもあれってタオルって言うかもう雑巾だよね? 超臭かったし!病気になるわ!
何か改善できそうな良い方法ないかなあ。
あ、この日記は日本語で書くことにしてる!
前世の記憶を失くしたくないのもあるけど、一番は誰も読めないと思うから!
そこまでを書き、少女はインク瓶の蓋を閉めた。
机代わりに使用しているのは一人掛け用の椅子だ。
それをベッドの傍らまで移動させ、腰掛部分に今日貰ったばかりの本を広げていた。
ベッドに腰掛けて書いていたのだが……イスとベッドの高さがほぼ同じであったからか少し腰が痛い。次に書くときはもう少し良さそうな場所にしなければ。一度体を伸ばしながらそんな事を考えていた。
インクのまだ乾いていないページに羽ペンの羽の部分で扇ぎながら、もう一度自分が書いた場所を見直した。
丁寧に書いたため初めてであったがインクで紙を破いたりはしなかったようだ。
その事を少しだけ誇らしく思いながら、乾いたのを指でなぞって確認した。
「……よし!」
指先はかすかに汚れただけだ。これならば本を閉じても滲んだりはしないだろう。
念のためそうっと本を閉じ、羽ペンを机に置いてベッドに転がった。
「良い方法……うーん」
天井を見上げながら『良い方法』を考えるが、全く思い浮かばない。
前世を思い出す前と後では色々と見えているものが違っている。
それまでは――どうやらかなり空虚な時間を過ごしていたのか記憶があまりない。
だから状況整理を兼ねて日記をしたためていれば何か妙案が浮かぶのでは、と思っていたが……
見たもの、聞いたもの、知っているもの――
とにかく“今の自分”には様々なものが足りなかった。
「――そうだ!」
身を起こし、手を打った。
「何をするにしてもまずは体力よね!
どーせすることないんだし、腹筋とか腕立てとかしてよーっと!」
思い立ったが吉日!
と転生少女は狭くても出来る筋トレに取り掛かったのだった。