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第五章:主星(ほし)と出逢う時までⅡ(第17話)

それからしばらくしてが市庁舎を出たのは、日がかなり傾きかけた頃であった。


宿屋までジェスに送ってもらったは、帰って来てフリックがいない事に気付く。

宿屋の人に聞くと、何やら買い物に出掛けたらしいのだ。
待ってるのもたいくつなので、迎えに行くと言う名目で、少しだけ街を見学する事にしたのだった。




夕暮れ真近の露店通りは、晩御飯の食材を買い求める人々で賑わっていた。
店閉まいの値引きを狙ってる主婦もきっと多いのだろう。

慌しく人の行き交う中、は露店に並ぶ品物を手に取って見ていた。


「傷薬は100ポッチか……。砦で売ってる値段と同じなのね。
 う~ん、今イチまだこの世界の物価の感覚に、馴染めないわね。

 バンダナが50ポッチだから私の世界で言うなら500円……ってところかしら?
 そしたら1ポッチ=10円って事になるわね。すると……」




顎に手を当てて、難しい顔をする。手に持っている物を見詰めている。

彼女の手には つい先程買った『身代わり地蔵』と言う木彫りの人形が握られていた。
どうやらここに来るまでの間に、店の者に勧められるまま買った物らしい。

「……やっぱり、これってすっごく高価な物…だったのかな?」


今まで砦から余り出た事が無かったので、お金を使う事は無かったし、リューべで一人で買い物に出掛ける事も無かった。
なので当然、物価の感覚が今一つ分かってなかった様だ。

足元を見た店員に、本来の値段より高く売り付けられてしまった事も知らず、只、『凄い魔法の効力があるお守り』だと言われ、それをそのまま信じて買ったのだろう。
それ程、は魔法グッズにとても弱かった。



自分の世界の通貨価格に換算して、やっとその物の高価さに気付いたは、思わず冷や汗を掻いていた。
この半年間の給料が半分も減ってしまったのだから……。



「ま……まあいいか……な? あは……あははは!」


「…………何がいいんだ、?」

「へ……?」



自分の名を呼ばれ何気なく振り向くと、そこには腕組をして眉間にシワを寄せたフリックが立っていた。


「フ……フリック!? どうしてここに!!!」


驚きの余り青くなり、思わず数歩後ずさる。

フリックを迎えに行く途中だったのを、ショッピングに夢中になってしまったは、今の今まですっかり忘れていたのだ。
ちょっとだけ……のつもりだったが、やはり今回も好奇心には勝てなかった様だ。

普段一人で行動するのを硬く止められていたので、買い物しているこの現場を見られては言い訳はまず通らないであろう。

ささやかな抵抗(いいわけ)を試みるが案の定、この後はいつもの様にフリックに怒られてしまったのだった。






ちょっとした(?)ハプニングがあった後、二人は気分転換に街中(まちなか)の公園へとやって来た。
日はすっかり暮れていたが、満月の光と外灯の灯りと共に、ほんのりとベンチに座る二人を照らしていた。


「……そう言えば、そのフリックの持っている物って一体何なの?」

「ああ、これか? を待ってる間、道具屋で見付けた物なんだが……」


「あっ!!」


白い布に包まれた物を解いて見ると、それは白木作りの月の形をした直径50センチ程の竪琴であった。
どうやらフリックが、あの時道具屋で見付けた物はこれだった様だ。



「こ……これって『ハープ』よね!? 一体どうしたのフリック?」

「“ はーぷ ”??
 あ、ああ、こっちでは竪琴って言うんだが……。これ、にやるよ」


「ええええっっ!!!
 でも何だか……高そうな物だけど、本当にいいの!?」

「ああ」


「嬉しい♪ ありがとうフリック!!!」

「わっ!」



感激したはフリックにお礼のキスをすると、竪琴に頬を摺り寄せながら嬉しそうに抱きしめた。
実際、少々高い買い物だったのだが、本当に嬉しそうにしている彼女を見て、フリックは買って来て良かったと思った。


「でも凄いね、フリック。
 どうして私が『ハープ』……じゃなかった、竪琴……を弾けるって知ってたの?」

「ほら、トランにいた時にが持っていた竪琴にホントそっくりなんだ。
 ……オレも道具屋でこれを見付けた時は驚いたんだが」


「私……が?」

「ああ、よくこれを弾きながら唄ってくれたよ。
 それにしてもこんな所で同じ物が手に入るなんて、不思議な事もあるもんだ」

「へぇ~、そうなんだ」



は両親が音楽家なだけあって、色々な楽器に接する機会が多かった。
中でもハープはお気に入りで、絵本の中の竪琴に憧れて、小さい頃から家で練習していたのだ。

本来のハープより小さなこの竪琴は、音域こそ狭いが、普通の曲を弾くのに特に問題は無い様だ。
その上、白木をベースに細かい細工が施されて、まるで本当に絵本の中にある竪琴の様で、一目では気に入っていた。

それに何よりもフリックからの初めてのプレゼントなので、嬉しかったのだ。

そしてトランのの事については、いくら考えてもその謎は解けなかったので、はもう考えるのを諦めていた。
その内、分かる時が来るだろうと開き直る事に決めたのだった。



気を取り直し、軽く音合わせをする。
そしてこの竪琴で弾ける曲を考えたは、早速弾いてみる事にした。


「この曲は……!?」




軽やかな前奏と共に唄い出す。
そう…これはの世界の有名な曲、千と千尋の神隠しの『いつも何度でも』の曲だった。

彼女の不思議な響きを持つ肉声で、周りの木々達が一斉にざわめき出す。
もう秋も終わりだというのに、次々と新しい新芽を芽吹かせていた。


その神秘的な現象にフリックは息を呑んだ。


もう何度この光景を目の当たりにしただろう……?
それでもその感動はその度フリックの心に響いて、胸が熱くなるのを感じている。

歌詞はの世界の言葉のままだったので、フリックには分からなかったが、この曲には聞き覚えがあった。



『そうだ。これはあの時の曲だ……』





それはトラン解放戦争の最中、最愛の恋人を亡くしてしまったフリックを元気付ける為に
が唄ってくれた曲だったのだ。


その歌詞は打ちひしがれた自分の心に直接届いて、欠けた部分を少しづつ癒し、そしてその歌声は、目標を失い暗闇に閉ざされた自分に希望の光を与えてくれた。

今にして思えば、それは彼女の『希望の紋章』の力だったのかもしれない……。

宿り主を悲劇に追い込むと聞いた紋章だったが、あれが本来の姿だったのだとフリックは思った。














――時の経つのも忘れてその懐かしい歌に、フリックは聞き入っていた。



……だがふと人の気配に気付き周りを見てみると、いつの間にか人が集まっているではないか。
どうやら公園やその周辺にいた人々が、の歌を聞き付けて来たらしい。



『なっ!? しまった……』


目立つ行動を出来るだけ避けていたのに、これでは今までの苦労が水の泡だ。
剣士なのに人の気配に気付くのが遅かったと、思わずフリックは自分を恥じていた。


だが観客達は時間と共に、一人増え、二人増えして、とうとうちょっとした人だかりにまでなっていた。
そしてが唄い終えるのと同時に、一斉に拍手が沸き上がる。

その騒ぎに驚いたは、目を丸くして周りを見回した。




「凄いぞ、お嬢ちゃん!」

「本当に素敵な歌だったわ!」

「オレなんか思わず感動して、泣けちまったぜ!」

「貴方、何処の歌姫なの?もっと聞きたいわ!」




観客達はそう口々にの歌を褒めている。
中には感動の余り、泣きながら握手を求める者までいたくらいだった。

いきなりの事では真っ赤になりながら、あたふたとしている。
まさか、フリックの他に観客がいたとは思わなかったのだ。


「えっ!? えっと!そ、その……」

「す、すまない! オレ達急いでるんで、それじゃあ!!」

フリックは返答に困っているの腕をいきなり引っ張ると、これ以上騒ぎを大きくしない為に取り合えず慌ててその場から退散したのだった。
















「ハァ、ハァ……」

「もう……ここなら大丈夫のようだな」


中央大通りを抜けて東地区へと続く路地の途中、建物の間で隠れる様に一息吐いている二人。
フリックは大通りの方を見て、誰も追って来ていない事を確認すると、壁際に積まれている木箱の上に腰を下ろした。



「あ~ビックリした! あんなに人が集まってるなんて……」

そう言うとは、持っていた竪琴を布で包み直し木箱の上に置き、自分もフリックの隣に腰を下ろして一息吐いた。



「やっぱりあんな街なかで唄うのは、ちょっと不味かったか……」

「ご、ごめんなさい!嬉しくってつい……」


申し訳無さそうにする
そんな彼女を見てフリックは、肩を竦め困った様に笑っておどけて見せた。


「はは! いや、別にのせいじゃないさ、の時からそうだったしな。
 それに……さっき唄ってくれた曲は“ いつもな●どでも ”ってヤツだろ?」

「えっ!? そうだけど……良く知ってるわねフリック!」



いきなり日本語で曲名を言われ、驚く。フリックの顔をまじまじ見ている。



「ああ、忘れないさ。がよくオレに唄ってくれた曲だからな」

「そう……なの?」



「…………は覚えて無いかもしれないが、オデッサを亡くしたオレをこの歌で勇気付けてくれたんだぜ?」


「えっ? オデッサ……ってフリックが持ってる剣の事??」

「違うに決まってるだろ! ……まあ、これも同じ名前だが」



思わずフリックは、愛剣オデッサを失くしてガックリ項垂れている自分を想像してしまい、そんな突拍子もないのボケに、すかさず突っ込みを入れた。


気を取り直す様に大きく咳払いをした後、深い溜息を吐くフリック。
そして懐かしそうな瞳で夜空に浮かんでいる月を見上げた。










「…………オデッサって言うのは、オレの恋人だった女性の名前だ」






「え…………」





『恋人』と言う言葉になぜか胸がチクリ と痛んだ。
そして周りの音がかき消され、自分の胸の鼓動だけが耳に鳴り響いていた。

『な……何だろ?この気持ち……』

生まれて初めて抱く感情に、彼女は戸惑いを隠せずにいた。

だが、そんな彼女の不安気な表情は、月の光の影になっている為、フリックからは見えない。
それに気付く事無く、フリックは深く息を吸い込んだ後、懐かしそうに話し続けた。




「……以前オレ達がいたトラン解放軍の初代リーダーが、そのオデッサだったんだ。
 彼女はその戦いの最中、命を落としてしまったんだよ……」

「!!」



――フリックの告白に何も言えなくなる。


彼に恋人がいた事実に軽いショックを受け、それと同時に彼女が死んでいた事に、心のどこかで安堵してしまったのだ。
その気持ちに気付いたは、そんな自分を恥じた。

『……私ったらなんて嫌な人間なんだろう』


本来悼むべき相手に対して、亡くなっていて良かったと思う自分を、フリックが知ったらどう思うだろう……。
それ以前にその考えは人として恥ずかしい事だと、は深く反省をしていた。


目の前のが心の中でそんな葛藤をしている事など知らないフリックはその後、オデッサの後を引き継いだ達と何があったのか、自分のいない所で最愛の人を亡くしてしまい自分の未熟さを悔やんだ事など、自分の想いをゆっくりとに語った。






――解放軍リーダーを務めていたオデッサ。それを支える副リーダーの自分。



オデッサは自分より一つ年下だったが、その考えや行動力は自分よりも何歳も年上に見える程であった。

最初彼女と出会ったきっかけは、戦士の村の風習である『成人の儀式』に丁度良い腕試しにと考え、軽い気持ちで解放軍に参加したのがそうだった。


だが、そこでの彼女の思想と演説を聴いて本気で心を動かされ、彼女を支える一人になる決意をしたのである。

只、彼女への尊敬と憧れの想いで解放軍に尽くし、そうしている内に軍内で力を付けたフリックはいつの間にか副リーダーの立場にまでなっており、その上、彼女を支える一番身近な恋人という存在にもなっていた。


だが実際は一般の恋人同士とは程遠い関係だった様で、尊敬し、憧れの対象である彼女に見合う男になろうと、いつもフリックは背伸びをしていたらしい。

なので彼女の前では、弱い自分は見せた事が無かったのだ。


恋人にも見せた事が無い姿を、今、目の前の少女に見せている……。


――自分にとってこの少女の存在は、一体何なのだろう?

語りながらフリックはそう考えずにはいられなかった。










一通り話し終えたフリックは一息吐くと、少しすまなさそうにを見た。


「すまなかったな。つまらない話を長々としちまった様で、はは……」

「う……ううん、そんな事無い! そっか……、フリックも色々あったのね」



お互いなんとなく目が会わせられず、正面の壁を見詰めていた。
の方は、複雑な気持ちを抱えたまま、こんな時にどう言葉を掛けて良いのか分からず、只、戸惑っていた。

だがそんな時、ふと大好きな父がよく言っていた言葉を思い出した。



『あ……!そうね。 こんな時お父さんならこう言うだろうな……』








長い沈黙の後、囁く様にが口を開いた。

「…………あのね。私のお父さんが言ってたんだけど、魂って……永遠なんだって」

「え……?」



の突然の言葉に驚き、フリックは振り向いた。
彼女は膝を抱えて、少し懐かしそうな表情で正面の壁でない、どこか遠くを見詰めている。


「……『あの世』と『この世』を行ったり来たりして、色んな人達と出会って、その中で経験したもの全ては自分の魂を磨く糧になるの。

 だから……辛い事も悲しい事もみんな意味があって、その分、魂が深く強くなれるって教えてくれたわ」



「魂が深く……強く……」



その言葉に驚いた様に目を見開いているフリックは、噛み締める様に何度か呟くと、そっと目を閉じ、フッ……と微笑んだ。






「やっぱり君は変わってないな」


「え……?」



フリックに“ 君 ”と呼ばれ、驚いた様に振り向く
隣に座っている青年は自分を見詰め、少し切ない……それでいて優しい微笑を浮かべていた。

その整った顔に浮かぶ微笑に、思わず見惚れてしまう。



「……あの時……オデッサの死を乗り越える事が出来たのは、だった君のお陰でもあるんだ」

「私……の?」


「ああ。……オデッサを失って落ち込んでいたオレを懸命に励ましてくれたんだ。
 『人は死んでも、魂は生き続ける。そして何度でも廻り会う事が出来る』ってな」



「オレはその言葉を聞いて救われたよ。

 今は離れる事になっても、いつか又会える……。
 だからそれまでちゃんと前を見て、今自分が出来る精一杯の事をしよう……。
 そう決めたんだよ」




そんなフリックの言葉を聞いて、今まで複雑になっていた気持ちも忘れ、尊敬の眼差しで見詰めた。


「凄い……フリックって凄いね。そんな凄い事考えれるんだもん!」



に褒められ、思わず真っ赤になるフリック。
照れ隠しのつもりなのか、慌てて否定する様に手を振った。


「なっ何言ってるんだよ!
 これもだったがオレに言ってくれた言葉なんだぜ?」


「えええっ!? 私が??

 ……う、う~ん。確かにいつも自分に言い聞かせている言葉だけど、
 人から言われると何だか違った感じに聞こえるわね……」



腕を組み、しばらく考え込む様に唸っていたが、その後パチンと両手を合わせると少しはにかむ様に振り向いた。




「……でも、それが少しでもフリックの役に立ったんなら、私……とっても嬉しい!」



『あ……』






月明かりが銀の髪に仄かな輝きを与え、嬉しそうに笑うを美しく、それでいて儚げに映し出していた。
その幻想的な彼女の姿にフリックの胸は大きく高鳴った。

たまらなく愛しさが込み上げ、その想いをどうしても抑える事が出来ない。
そして自制のきかない自分自身に逆らう事が出来ず、思わずを抱きしめてしまったのだった。



「あ……!」




――気が付くとはフリックの腕の中にいた。



何が起こったのか分からず、は只、戸惑っている。

いつもはスキンシップの一環で自分から抱き付く事はあっても、フリックから抱きしめられる事は無かった。
だが、今は違う。自分はその大きく温かい腕の中にいるのだ。




「……あんな別れ方をして随分経つけど、オレはその時の礼をずっと言いたかったんだ。
 ありがとう、…………」



「フリック…………」









時間が止まった様にしばらくの間、二人は抱きしめ合っていた。

最初、戸惑っているだけのも、次第にフリックの腕の中にいる喜びを感じ、その温かさに包まれて胸の鼓動がだんだんと大きくなってくるのを感じていた。

こんなにも心地良い居場所があったなんて……。



前にも一度、が錯乱した時、それを治める為フリックに抱きしめられた事があった。
その時もこの温かさに包まれ、喜びを感じたのだが、何かが違う。
この甘く切ない気持ちは一体何なのだろう……?




――そんな時、突然ある言葉がの脳裏をかすめた。



『ねぇ!ちゃんって……フリックさんの恋人なの?』




それは以前、酒場の女の子達に言われた言葉であった。
思い出すと同時にドキン!と心臓が飛び跳ねる。

当時は異性としてフリックを見るなど、全くそんな事は考えた事もなかったので、否定していたが、今は……どうなのだろう?

その事を考えると更に止まらない胸の高鳴りに、否定出来ない自分を感じている。




『あ……、私……もしかしてフリックの事、好き……なのかな?
 でも……でも私………』




“ この世界の人間じゃないから………!!!! ”





自分の正直な気持ちを問い掛けていた。その全身を駆け抜けた一つの結論がそれであった。
今までの甘く切ない想いから一変して、諦めと悲しみの気持ちが胸一杯に広がる。



『そうよ……ね。私はこの世界の人間じゃないもの、そんな資格なんか無い!
 フリックだって私を家族だと思ってるだけで、いきなり好きって言われても迷惑よね、きっと……。

 それに家族になってくれただけでも、ありがたい事なのについ甘えちゃって……ホント図々しいよ、私ったら!』



首を振って未練の想いを振り切ると、これ以上フリックに抱きしめられたら、自分の想いを止められなくなりそうで怖くて、慌ててフリックの腕を振り解いた。




「うわっ!」


いきなりが離れたので驚くフリック。
今までフリックの方も満たされた想いにに浸っていたので、この突然の事に対応出来ず、只呆然としていた。

はそんなフリックの顔を見る事が出来なかった。
そして、今の自分の気持ちを悟られない様、目を逸らしたまま精一杯おどけて見せた。


「あっ、あのっ!ごめんなさいフリック!
 わ……私、お腹空いたからそろそろ宿屋に帰りたいの!
 だから先に行くねフリック。えっと、その……竪琴ありがとう!」



木箱の上に置いていた竪琴を素早く取り、はフリックの方を振り返る事無く、その場から駆け出して行ってしまった。





「えっ? ちょっ……待っ………!」


呆然としたままだったので、呼び止めることも出来ずにそのまま見送ってしまう。
その素っ気無い彼女の態度に戸惑いを隠せないフリック。

そしてハッと我に返って自分のした事を思い出し、一気に血の気が下がってしまった。


――自分は何をしてしまったのか!?


今まで何度も同じような感情に囚われたが、その度押し止める事が出来ていたのに、今回に限って、場の雰囲気に飲まれてしまったのだ。

抱きしめた時の彼女は、間違いなく戸惑いの表情をしていた。
それに先程の自分を拒む態度は……。



『も……もしかしてオレ……アナベルか言う様に、嫌われた……かも……』



自分のとった行動の迂闊さに、フリックは只、呆然と少女が去って行った路地を見詰めていたのだった。









一方、は、宿屋に向かってフリックからひたすら逃げる様に走っていた。

それは彼に惹かれつつある自分から、逃げたかったのかもしれない。
はもう一度、自分に言い聞かせる様に呟いた。


『この気持ちはもう忘れよう……。
 明日になったらいつもみたいに話せるよね?だって……私達は家族なんだもん!
 そう、それが一番いい関係なんだ。一番…………』






の通った薄暗い路地を、冬の到来を思わせる肌寒い風が吹き渡った――

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*******後書き*********

15話UPからなんと、六ヶ月も過ぎてしまいましたぁッ!!!
別のサイト作りに没頭していたとは言え、かかり過ぎですよね…(汗)ひたすらすみません、すみません……。
お詫びを兼ねて、二話分アップしてみました!

下書きの段階では、今回の話までに色々エピソードがあったのですが、さっさと先に進めよな!と言う娘の要望や、
自分も幻水メインキャラさん達を登場させたいので、省略しました。
気力があれば、外伝に書きたいと思っとりますが、私の事ですからどうなる事やら……(汗)

ドリームといっても、話が原作をかなり無視した状況になりつつあります!捏造しまっくってます!
何かもう、ほぼオリジナルって感じですよ、これ! 後先考えずにヒロインさんは発明しておりますし…。
でもやっとここに来て、フリックドリームっぽくする事が出来ました。ちょっとだけ満足♪

他のドリームサイトさんでも、フリックとオデッサとの関係は色々考えられていますが、
ここでは『憧れの延長上の恋』だった…という事にしてます。
もちろん♪大人の関係ですけどね。
きっとその時って、オデッサがリード★してくれたんだろうな…ププッ!(笑)

さて!次回はフリックの気持ちをハッキリさせたいです。んでもって、またもやレック&ルックさん達の登場!?
ルックとの初めて出会いにヒロインは、一体何を思うのでしょうか?乞うご期待!?←私の文じゃたかがしれているけどね。

>20060121

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