――フリックは先程からが嬉しそうに持っている小さな物を見てそう言った。
その初めて見る不思議な物は、二人が乗っている馬の歩みに合わせてクルクルと回っている。
「あはっ♪ これは『
トトの村のピリカちゃんにあげようと思って、作ってきたの」
「ピリカ……? ああ、この前知り合ったって言っていた子供か」
二人は今、ミューズへの定期報告の為、トトの村へと続く街道沿いを馬で北上していた。
傭兵隊には二ヶ月に一度の定期報告が義務付けられていて、ミューズへ出向くのは今回で三度目であった。
そう…………達が砦に来てから丁度半年が過ぎようとしていたのだ。
来た当時は緑の濃くなり始める春だったのだが、今ではもうすっかり秋も深まり、紅葉シーズンとなっている。
砦ではあれから色々と改善されていた。
まず一つは、ビクトールやフリック達の手によってトランでの経験を生かし、兵士達の訓練方法などが改善された事だ。
ビクトールの脅し如きで飛んで逃げる様な兵士では、とてもじゃないが敵と戦えないと感じたからだ。
まぁ、余程の者でも無い限り“ 熊 ”の脅しに勝てる人間はいないとは思うのだが…………。
そしてその他にも改善……と言うよりも、新しく取り入れられたものの中にレオナの酒場があった。
これを発案したのは、言うまでもなくビクトールである。
酒&女好きの彼なら頷ける提案ではあるが、なんとフリックも二つ返事で了承していたのである。
実はこれには深いワケがあったのだ。
――砦内には約200名に登る 各地から募集した傭兵達が暮らしていた。
兵士達の宿舎は主に右側にある新しい建物で、中央本館一階には、道具屋、風呂場、食堂兼酒場。地下一階には鍛冶屋、倉庫。
そして二階には会議室と小隊長等、兵士をまとめる主だった者達の個室。
それと客室がいくつかあった。
砦内の雑用のほとんどは経費削減の為、兵士達によって当番制になっている。
道具屋やバーバラの様な雇われた少数の者達は、近くにあるリューベと言う村から募集したらしい。
『働かざる者、食うべからず』 をモットーとしている、ここ傭兵隊。
隊長・副隊長の二人は良いとして、は自分の役割りについて少し悩んでいた。
最初、二人の補佐役としての肩書きをもらったのだが、字も読めなければ、書く事も全く出来ないのだ。
これでは役立たずに等しい。
まさか客人としてここに住む訳にもいかず、文字をマスターするまでの間取り合えず、は雑用係りを申し出たのだった。
「おい。お前は一応 隊長補佐なんだから、そんな雑用しなくていいんだぞ?」
「だって……。
補佐って言っても、ほとんどトムさんがやってるし、経理の計算だけでここに住まわせて貰ってるなんて何だか申し訳なくって……」
「だけどなぁ……」
「心配しないでフリック。
私 無理なんてしてないし、只お手伝いしてるだけだから。ね?」
フリックはまだ何か言いたかったのたが、にはそれが何なのか分からなかった様で、結局、彼女の意見を通す事となった。
『一応ここは、野郎ばかりの所だからな。何も無ければ良いんだが……』
――だが案の定、フリックの心配していた通りの事が起こってしまった。
若い……それもカワイイ女の子が入って来たとあって、早速兵士達はにちょっかいを掛けて来たのだ。
最初は当番でもないのに洗濯やシーツの交換、そして食事の下ごしらえ等を一緒に手伝ったりとまだ控えめだったのだが、その内とうとう直接アプローチしてくる連中まで現れた。
の反応はと言えば、男性にあまり免疫が無いので当然の如く、話し掛けられる度に真っ赤になって逃げ出していたらしい。
フリックはビクトールと二人して、隊長の権力にモノを言わせ、それらを追っ払ってきたが一向に収まる気配が無かった。
『…………やっぱ、ここは女っ気が全く無ェもんなぁ』
そんな兵士達にビクトールの方は少しは理解を示していたが、フリックはそれを許さなかった。
「何をしている、お前らアッ!!!!!」
兵士がにちょっかいを出す度、彼は戦場で敵相手に見せる様な眼力を使い、野郎共を威嚇し、追い払っていた。
その余りの恐ろしさに、兵士達の間では 『青雷』 をさし置いて密かに『青い鬼』とあだ名が付いた程なのだから……。
「…………………………」
このままではその内、フリックの手によって死人が出るかもしれないと、ビクトールは心配し、兵士達の気を紛らわせる為、砦内に酒場を作る事にしたのだった。
なので、唯一ミューズでの知り合いである美人女将レオナに頼み込んだ……と言う訳である。
開業するにあたってレオナは、街で募集した若い女の子を何人か連れて来ていたので、兵士達は大喜びで彼女らを歓迎したそうな。
「『木を隠すには、森が一番』だよな、やっぱ!」
「……………………」
ビクトールは自分の好きな酒が毎日飲めるとあって、上機嫌であったが、最初は賛成したものの反対にこの事に素直に喜べないフリックがいた。
が狙われる確率が減ったのは良かったのだが、今度はフリックが狙われるハメになってしまったからだ。
女の子達が案の定、フリックに目を付け騒いでいるのだ。
取り合えずが大丈夫ならそれでいいか……と、フリックは深い溜息を吐き、仕方なしに諦めたのだった。
『それにしても、この半年間は色々あったよなぁ……』
――今思い返してみても、この半年間は色々あったとフリックはしみじみ思った。
の馬鹿力は相変らず、時々発揮されていた。
だが、『必殺の紋章』を宿しているのだと最初にフリックが言っていたので、皆に驚かれてはいたがそれ程不信に思われる事は無かった。
只一部の者……そう、隠れ(?)心配性のギルバートを除いてはなのだが……。
彼は未だにが、ビクトールやフリックを従えている裏のボスだと思い込んでいるらしい(笑)。
そしてその他、彼女の手先の器用さと、異世界人の際立った才能は注目される事となった。
が作り出した物は色々あったが、中でも『
――以前、ハイランドとの国境付近で小競り合いがあった時の事だった。
一般では『瞬きの紋章』は希少なので使われる事は無く、もっぱらナセル鳥を使って状況を伝える事が主であった。
なので、現場から距離があればある程時間がかかり、ビクトール達が駆け付けた頃にはすでにハイランドの兵士達は引き上げた後だったのだ。
相手もそれが分かっているのか、奇襲を掛けてはすぐに引き上げるという、まるで嫌がらせの様な事を何度も仕掛けてきたので、ビクトールの方もかなり苛立っていた様だ。
そんなビクトール達を見て、なんとか出来ないものかと考え出された物がその『凧』であった。
この世界には『凧』という物が存在しなかったので、最初不思議そうに見ていたビクトールとフリックも大空に舞い上がるそれを見た時は、驚きと感嘆の声を上げた。
「へぇーっ! “ たこ ”って言うのか。凄ェなあ!」
「凄いのは分かるんだが、コレを何に使うつもりなんだ?」
「よくぞ聞いてくれました!
簡単に言うと、あの『凧』の色を状況に応じて変えるのよ♪
例えば……敵が近くに来た時は赤にしたりとか、敵の人数とか分かる様にするんだったらその下に何か繋げてもOKね。
もっと大きな物を作れば遠くからでも見えるから、伝書鳩より速く知らせれるわよ?」
えっへん!と得意気に説明する。その言葉に、さらに感嘆の声を上げる二人。
「成る程!! 色を変えて暗号式にすれば良い訳だな?
凄いな!よくこんな事思い付いたな!」
のアイデアに興奮するフリックは、思わず彼女の頭を撫でている。
「凄ェな!……でも見た所、
あの“ たこ ”ってのは風が無きゃ飛ばないみたいだが、無い時はどうする?」
「ふっふっふ ご心配なく♪
そんな場合もちゃーんと考えてるわ!それじゃ、ちょっと私の部屋に来てくれる?」
に呼ばれるまま、彼女の部屋に入る二人。
―――と、二人がそこで見た物はこれまた摩訶不思議な物体であった。
「な……何だこりゃあ……??」
彼らの目の前には釣り糸がぶら下がっていて、上を見上げると何か半透明の物体が天井に張り付いていた。
それに繋がっている釣り糸を引っ張って降ろすと、その謎の物体は意外と柔らかくプニプニしている。
どうやら中身は空気が入っている様だ。
「……何でこんな物が宙に浮いてるんだ?? 魔法……なのか?」
二人が今まで触っていた物を手放すと、それは再び浮き上がって、元あった天井に張り付いた。
「ふふ……。 これは『風船』って言うの♪」
「「 “ ふう……せん ”??? 」」
「ええ♪ 私の世界から持って来た『ビニール袋』に空気より軽いガスを入れた物よ?
あ! そのガス……ってのは昨日フリックに作ってもらった物だけどね。」
「えっ! アレがそうだったのか!?」
フリックは昨日、実験だと言われ、水に手を突っ込んで雷鳴の紋章を少し使っただけなのだが、なぜそれだけでガスが発生したのか、全く分からなかった様だ。
の世界の者ならば、水を電気分解すれば『水素』と『酸素』に別れる事ぐらい中学生でも知っているのだが、この世界では、それを理解しろと言うのは到底無理なのである。
もそれを知って余り詳しく説明はせず、軽く流したのだった。
「………コホン!まあ……取り合えず!
この『風船』を『凧』の代わりに使えば、風が無くっても平気な訳なのよ!
ほら、今みたいに勝手に上に浮かんで行くからネ♪」
二人は関心して、何度も深く頷いた。
「……次々と、よく思い付くもんだな!」
「えへへ♪ 役に立ちそうで良かった!
『科学』……えっと、こう言うのって確か、こっちの世界では錬金術って言うのよね?」
「錬金術!? ……ああ、そうだったな。確かも錬金術に詳しかったよな。
トランにいた時はカマンドールやセルゲイ、ジュッポ達とよく妙な物を作っていたっけなぁ……」
「ああ、その中でもあの“ えんじん ”ってヤツは凄かったよなぁ!
運ぶのにエラく苦労しちまったけど、風が無くっても船を走らす事が出来たんだからな」
「え!?」
またもやの名が出て来たので驚く。
“ えんじん ”……という言葉の響きは、あくまでも日本語のそれなのだ。
後に続く説明を聞いても、の世界のエンジンと同一の物だというのが分かる。
さらに詳しく聞いてみると、カマンドールがまだ名付けていなかったその物体に“ えんじん ”と名付けたのは
なんと精霊のだったそうだ。
『………………やっぱり、精霊のって私……なのかな???』
もし今度あのレックナートに会えたなら、絶対真相を聞かねば……と、改めては思ったのだった。
とにもかくにも、あっと言う間の半年であった。
フリックは今までの出来事を思い返しながら、自分の前に乗っている少女を優しげに見詰めていた。
――真の紋章……『希望の紋章』を宿した異世界の少女。
その紋章の特殊な性質故に、それを誰にも知られてはいけなかった。
知られたら最後、野望ある者達によって利用されるのが目に見えていたからだ。
あの遺跡で遇ったバンパイヤの様に……。
今はいない星辰剣との約束もあるが、今までの『希望の紋章』の宿し主の様な悲劇で終わらせない為にも少女を守るとあの時心の底から誓った。それは今でも続いている。
フリックやビクトールにとって、いつの間にか傍にいるのが当たり前になっている程、の存在は大きなものとなっていたのだ。
出会ってからまだほんの半年しか経っていなかったが、その間に少しづつ募った想いは以前の恋人を凌ぐ程になっている事に、彼はまだ気付いてはいなかった……。
「あ!見てフリック、トトの村が見えて来たわ♪
着いたらピリカちゃん家に行って来てもいいかな?この『風車』も渡したいし」
物思い耽っていたフリックは、の声でハッと我に返った。
そして振り返ったその無邪気な笑みに微笑み返すと、仕方なさそうに肩を竦めた。
「え?……あ、ああそうだな。
だがあんまり遅くなるなよ、?お前はいつも夢中になると……」
「あ~はいはい!分かってますって!! 今日は……きっと大丈夫だから!」
またいつものフリックの小言が始まりそうになるところ、引きつった笑いでごまかす。
手のひらをパタパタさせている。
の『大丈夫』は彼の相棒と同じくらい当てにならないと知っているフリックは、彼女の言葉に再び肩を竦め、深い溜息を吐いた。
そしてその夜、やっぱり帰って来ないを迎えに行ったのは言うまでもない。
――それから二日後ミューズに到着した二人は、宿をいつもと同じくレオナの店にした後、定期報告の為に市庁舎へと向かった。
フリックは比較的真面目だが、ビクトールと違って余り愛想の良い方ではなかった。
それは雇い主であるアナベルに対しても同じであった様だ。
一通り報告が済んだ後、無言で立ったままのフリックを興味深そうに見るアナベル。
それに気付いたフリックはムッとした表情をした。
その視線はまるで自分の心を見透かす様な、そんな視線で正直居心地が悪い。
「……何だよ。 何かオレの顔に付いてるのか?」
たまらず抗議するが、不機嫌なフリックとは反対にアナベルはどこか楽しそうにしている。
「フフ……。ウワサじゃ結構女の子にモテるらしいけど、愛想は今一つだね。
もしかして、それがトラン流なのかい?」
「ほ……ほっといてくれ! あれはむこうが勝手に騒いでるだけだ!
……それにいくら雇われていても、そんな事まであんたに言われる筋合いは無いね」
「ハハ!それもそうだ。いや、悪かった。……やっぱり生粋の剣士だよ、あんたは」
「当たり前だ」
そのぶっきらぼうな物言いに再びアナベルは笑った。
フリックは一応一通り報告が終わったので、出来ればさっさと居心地の悪いこの場所から退散したかったのだが、残念ながらそれは出来なかった。
隣の部屋で副市長のジェスに、文字を教わっているを置いて行く訳にはいかなかったのだ。
「今回の報告は一通り済んだ事だし、ご苦労だったね、もう帰っていいよ」
「だが、がまだ……」
「ああ、なら後でちゃ~んと送り届けるから安心しなよ。まだ勉強中なんだしさ」
アナベルはニッコリと微笑みながら、まるでフリックを追い出すかの様にしっしっと手を振った。
そんな彼女のあからさまな態度に、フリックは怪訝な顔をする。
いかにも何か企んでいる様なその笑みに、フリックは嫌な予感がしてアナベルの意見を突っぱねた。
「……いや、やっぱり終わるまで待ってるよ」
それを聞いてアナベルは心の中で小さく舌打ちをした。
どうやらフリックの考えた通りらしい。
だが、さすが年上の貫禄なのか、そんな事はおくびにも見せない。
そして彼をここから追い出すべく、別の方法を瞬時に考え出すと当て付けの様に少し大袈裟に深い溜息を吐いた後、ヤレヤレと肩を竦める演技をした。
「……ったく!アンタといい、ビクトールといい、揃いも揃ってあの娘に過保護なんだから!
いくら心配だからって、いつまでもこんな調子じゃだってその内嫌がるよ!」
アナベルのさり気無く強調した言葉に驚いて、フリックは慌てて彼女の方を振り返った。
「え!? が……そう言ったのか!?」
アナベルの予想した通りの反応に、密かにニヤリと笑う。
本気で不安な顔をしている所を見ると、日頃どれだけ少女を気に掛けているのかアナベルにはそれが一目で分かった。
『まだ恋人同士……って訳じゃ無いようだね。
…………それにしては異常なくらい過保護だけど』
そう呆れつつも、アナベルは何か別の理由があるのでは?……と考えていた。
この半年間、定期報告内には無かった別ルートの情報では、砦内での通信手段があの少女の発案によって改善されていた。
まだ実際見た訳ではなかったが、この辺りには無いモノを使用しているらしい。
砦の兵士の間では、彼女は錬金術師だと言うウワサも流れている程、さまざまな物を作り出しているのだそうだ。
『別の大陸の人間だとビクトールは言っていたが……。錬金術師か……』
今まで人々の間で余り注目されていなかった錬金術。
今現在隣接するハイランド王国とは、特に目立った紛争は無いのだが、油断出来ない状態なのは確かである。
もし大規模な戦でも始まれば軍事力の差を紋章で補いきれない分、その錬金術が必要になるかもしれない。
『…………やっぱり、私の目に狂いは無かった様だ。
今すぐは無理だとしても、その内私の元で一人前に育てるのもいいね……』
実際アナベルはを気に入っている様だ。
前回ビクトールと定期報告に来て昼食を共にした時に、彼女の前向きで明るい性格が気に入ったらしい。
その上、他愛の無い会話の中でも見かけによらず、かなり知性が高い事が伺えたのだ。
能力は未知数だが、上手く教育すればジェスの様に有能な部下となってくれるかもしれない。
幸い向こうからも子犬の様に懐いてくれている。
それも気に入った要因の様だが……。
なのでここぞとばかりにミューズに来る様勧めたのだが、やはりそこへビクトールが乱入して来て以前と同じく反対したのだった。
どういう経緯で共にしているのかは分からなかったが、この二人が彼女の身内だと名乗ってるのなら彼らが首を縦に振らない限りアナベルの望みは叶わないのだ。
『まあ、焦る事は無い。
ここは長期戦……と言う事で、もうしばらく待つとするかな』
ただ、やれる事はやらせてもらうけどね♪……と、意味深な言葉をその後付け加えたのは言うまでもないが。(笑)
――――と言う訳で、彼らが反対出来ない正論を盾に、隙を見て少しづつ二人から離そうと考えたのである。
この毎回行っている定期報告の際の勉強も、どうやらその作戦の一つの様だ。
ビクトールの場合は単純そうに見えて色々と経験豊かなせいか、なかなか一筋縄でいかなかった。
だが目の前の男は真面目な上、どうやら少女に関して何かと敏感になっている様子なのだ。
『フッ!青いね……。着ている服と同じくらい青いよ、この男は』
そうと分かれば扱い易い。アナベルは早速その方面から攻めることにしたのだった。
「………まだ言って無いけど、
嫌われたくなけりゃ今日ぐらい放っておいてあげる事だね、分かったかい?」
「うっ!!!」
知らず知らずの内にに嫌われる事を、いつの間にかフリックは恐れる様になっていた。
そんな彼にその言葉を突き付ければ、ひとたまりもないだろう。
案の定アナベルの読み通り、苦虫を噛み潰した顔でしぶしぶ市庁舎を後にするフリックであった……。
「あれ?フリックは??」
「ああ。の勉強の邪魔をしちゃいけないって、先に戻るってさ。
私は止めたんだけどねェ」
「ふぅ~ん。別に一緒でも構わなかったのに……」
「……コホン!
そんな事より今日も一緒にランチでもどうだい?ゆっくり話しでもしながらさ」
「ええっ!? キャー!嬉しい♪ んもうッ喜んで!!」
「よしよし♪ 」
『ア……アナベル様、本当はあの男を強引に追い払ったんですね……』
子犬の様に喜ぶの頭を、楽しそうに撫でているアナベル。
その横でジェスは、目的の為には手段を選ばない
がアナベル達と至福の時間を過ごしている間、フリックの方はを心配しつつ、レオナの店に戻っていた。
だが今回の目的である定期報告が済んだので、特にする事もなくヒマを持て余している様だ。
がいたなら、この大きなミューズの街を散歩するなりして楽しめるのだが……。
「……ふぅ。このまま一人でいてもたいくつだ。
……仕方ない、先に道具屋に行ってビクトールに頼まれた物でも買って来るとするか」
そう言うとフリックは、ビクトールの買い物リストのメモを片手に、街へと出掛けたのだった。
道具屋は街の東側にあり、さすが都市同盟の首都だけあって、様々な種類の店が軒を連ねていた。
今までゆっくり街を見る機会が無かったので、丁度良い。
そう思いフリックは早速適当な店に入って行った。
表からは分からなかったが、店内に所狭しと積み上げられている品物を見て、思わず呆気にとられてしまった。
そこには初めて見る品物や、薄汚れた何に使うのか分からない様な怪しげな物ばかりが置いてあったのだ。
どうやらこの店は、古道具屋だったらしい。
なので到底お目当ての物は見つかりそうも無い。
「ちょっと入る店、間違えたかなオレ……」
カウンターで本を読んでいた店の主人にじろりと睨まれながら、そそくさと出て行こうとしたフリックだったが、店内の一角に放置されていた物に、一瞬目が止まった。
「!? こ…これはもしかして……!!」