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第三章:希望の紋章Ⅰ(第6話)

―――小鳥がさえずる朝の光の中、は目を覚ました。



ぼんやりとする頭で周りを見回すと、そこは自分の部屋ではなく、小じんまりとした質素な部屋であった。
…………そう、がずっと夢だと思い込んでいた異世界なのだ。


『……………………やっぱり、夢じゃ無いんだ……』

少し寂しげに深い溜息を吐いた後、項垂れる
しばらくそのままの格好で何かを考え始めた。




『…………あれから色々考えてたけど……このままじゃいけないわよね?

 そうよね! このままずぅ――っと落ち込んでいても何も始まらないもの。
 この世界に来ちゃった事は事実なんだし、仕方が無い事だもんね……。

 これからどうすれば…………ううん! 何をするべきか考えるのが先決よ!
 そうよ、お父さんだって言ってたじゃない!!

 何をして良いのか分からなくなったらまず、自分の出来る事から一つづつやりなさいって!!』


顔を上げたは両手の拳をグッと握り締めて見詰める。 



『そうよ!だったら、まず、この世界の習慣に馴染む事から始めなきゃ!

 習慣……って言うと、言葉を最初に覚えるのが先決よね?
 幸い星辰剣さんって言うつよぉーい味方がいるし、早速今日からチャレンジだわ♪』

【 レッツ・コミュニケーションよ!
 1 ・ 2 ・ 3 ・ ダ――――ッ!!! 】


は自分に気合を入れ様とベットの上に立ち、腰に手を当て、まるで某プロレスラーの●ントニオ猪木の如く拳を頭上に突き上げたのだった。

それと同時にア●トニオ猪木のリングテーマソングと、試合開始のゴングの音が脳内に響き渡る。
の"やる気"ボルテージはMAX寸前にまで高められていた……。


―――だがその時…………




【 …………………………何、やっとるんじゃ?お主…… 】

【 へ…………?? 】

部屋の入り口を見ると、いつの間にかビクトール達が立っており、その上驚いた……と言うか、かなり呆然とした顔で固まってしまっていた。


【 ……え……えっと………… 】


せっかくの“ やる気 ”ボルテージも一気に下がり、再びの脳内に試合終了のゴングが鳴り響く。

カ―――――――ン……


その後、お互いどう反応すれば良いのか分からず、気まずい静寂が辺り一帯包み込んでいたのだった……。















そんなちょっとした(?)ハプニングのあった後、ビクトール達は朝食を食べに宿屋の酒場に来ていた。

先程、を誘いに行ったのだが、あの理解不能(笑)の行動を目の当たりにして、気まずい雰囲気のまますぐには行動を共にする気にはなれず、まだ着替えていないと言う理由を口実に先に来ていた様だ。

星辰剣はの頼みでそこに残り、後で一緒に来るそうだ。



さっきの影響がまだ残っているのか、黙って黙々と食べている二人。
……そんな時、その沈黙を破ってフリックが、不安そうな声でビクトールに問い掛けた。


「…………なぁ、ビクトール? さっきのアレ……何だと思う?」


「あぁ? …………う~~ん、そうだなぁ。
 もしかしたらの世界じゃ毎朝アレをするのが習慣なのかもな……」

「習慣……か……。
 これから一緒に暮らしていくなら、習慣の違いくらいで不安になったらダメだよな?
 の方がもっと不安なんだろうし、受け入れてやらなきゃな……
 そうか……あれは習慣なのか……そうか……」

「そ、そうだな……」

そう言うと、再び深い溜息を吐くビクトールとフリック。(いきなり挫折するのか!?)
特にフリックの方はブツブツ と何かを自分に言い聞かせている様な……?





そして、それからしばらくして少し重苦しい雰囲気の中、二人を不安にさせてしまった張本人がやっと、やって来た。
勤めて普通に接し様とするが、それがかえってぎこちない態度に見せてしまっていた。

「おっ! や、やっと来たか

「こっ、ここに座れよ!ハ……ハハハ」


だが、二人とは正反対にの方は先程失態を晒してしまったにもかかわらず、意外と元気であった。

二人の妙な態度にも全く気にせず、(←おい)テーブルの前まで来ると星辰剣をギュッと抱き締め、赤い顔をして何やら言いたそうにモジモジしている。


「「 ?? 」」

不思議そうな顔の二人は次の瞬間、驚く事になる。



「お……おはようございます、ビクトールさん、フリックさん。
 これからも よろしくおねがいします……ネ?」



「「 !!!!! 」」



たどたどしい発音ではあったが、いきなりが自分達の分かる言葉でしゃべり出したので、驚いて目を丸くする二人。

ビクトールに至っては、手に持っていたパンを思わず落としてしまった程であった。


「お……おい おい おい! 凄ェじゃねェか、!」

が、しゃべった…………」



ちょっと照れくさそうに笑うを見て、少しでもこの世界に馴染む為、懸命に言葉を覚えようとしているのを感じ取り、その意地らしさに思わず胸を打たれてしまった様だ。

先程まで、自分達が受け入れてやらねば……と一方的な義務感でものを考えていたのに、これでは逆になってしまっている。
二人は自分達の考えが間違っていた事に気付き、肩を竦めた。

そして詫びる為、フリックは少し屈んで優しく微笑むと、前向きな目の前の少女の頭を軽く撫で改めて挨拶をしたのだった。

「…………おはよう、。こっちこそ……これからもよろしくな?」





フリックの話す単語にさっき、自分がしゃべった単語と同じ物が含まれていたので、彼も挨拶してくれていると分かった
嬉しそうに微笑み返すと、再び星辰剣の方を見た。


【 ちと、発音が今ひとつじゃったが、なかなか上手かったぞ

【 えっ、本当!? ちゃんと通じたみたいで良かったぁ!
  これも星辰剣さんのお陰ですね♪ 】

【 はっはっは! これからもこのワシに任せておけば良いぞ! 】

【 宜しくお願いしますね、先生♪ 】


知ってか知らずか、が使ったこの“ 先生 ”発言は星辰剣にとって、大いに気分を良くさせる要因となった様だ。

この世界が始まってから生き続けている、気難しい彼には珍しく、一人の人間に特別の感情を持ったのだ。
それはまるで、娘か……はたまた孫の様に感じている……そんな感情なのであろうか?
この後も、星辰剣はしばらく上機嫌で、その上信じられない事だが、なんと鼻歌まで歌っていたと言う……。


『じ……じいさんが、鼻歌を歌ってやがる!?
 一体、に何を言われたんだ??

 …………それにしても片言だったが、しゃべる様になるとはな、驚いちまったぜ。
 まぁ、それだけ前向きに考えてるんだろうな、あの小さな体で……』



少女の前向きな姿勢に好感を持つビクトール。
ふと自分自身、いつの間にか彼女を見ている目が肉親の様に優しくなっている事に気付き、いつもの自分らしく無いなと肩を竦めた。

そして、よせばいいのに照れ隠しのつもりなのかいつもの彼らしく、におどけて見せた。




「よーし! それじゃあ、いいか
 “ 好き好きビクトール!愛してるわ! ”って言ってみるんだ♪」

「す……、すきすき…… ビクトール!あいしてる……ワ?」


「はっはっは、そうか そうかぁ♪ オレもだぞぉー、!」

笑いながら の頭を撫でるビクトール。






『ふぅ~ん。
 今の言葉を使うと喜んでくれるんだ……。そっか!覚えとこっと♪』

意味は全く分からなかったが、ビクトールが喜んでいるのを見て、今の言葉は相手を喜ばす言葉だと覚えてしまった様だ。
だが、そんな二人のやり取りを聞いてフリックが慌てて止めに入った。


「なっ!?
 どさくさに紛れて何を教えているんだこのオヤジは!!!」

が言葉を分からないのをいい事に、デタラメな言葉を教え込もうとしているのだ。

このままでは純真無垢な少女が“ 熊色 ”に染まってしまう……。(←どんな色だ?)
あせったフリックはビクトールからを取り上げて、自分の後ろに隠した。



「何怒ってるんだよ! オレはに言葉を教えてるだけじゃねぇか」

「ウソつけ! 遊んでるだけだろうが!!
 お前にを任せたら、とんでも無い事になっちまうよ!」



ぎゃーぎゃー と二人の言い合いが始まり、呆気に取られている
なぜフリックが急に怒り出したのか分からなかった。

だが、このままではいけないと思い、彼女はフリックの機嫌を治そうとある行動に出たのであった……。

後ろから呼びかける様にフリックの服の端を引っ張る
言い合いをしていたフリックがふと、それに気付き後ろを振り向くと、がにんまり♪と得意そうに微笑んでいた。

「……?? 何だ……」




「すき すきフリック! あいしてるワ♪」




「 !!!!!!! 」

いきなり満面の笑みで少女からそんなセリフを言われ、驚きと同時に真っ赤になって固まるフリック。

その言葉は女性にあまり免疫の無い彼には、効果抜群の言葉だった様だ。 
ビクトールとの反応がちょーっと違うので あれ?っと首を傾げている



「ぶぁっはっはっはっは!! おもしれェー!
 いいトシした野郎がこれだけで照れてやがるぜ。よっ! 純情フリックさん♪」

「な、な、な、何だとこの熊オヤジ!!!」


痛い所を突っ突かれ、本気で怒るフリック。
ビクトールの胸倉を掴んでケンカが始まろうとした、その時……

「貴様ら! 何をで遊んどるんじゃ!!
 いいかげんにしろッ!!!」


今まで黙っていた星辰剣の“ 怒りの一撃 ”(鞘で殴打★)を喰らった。
どうやら無事乱闘騒ぎにならずに済んだ様だ。

それはそれで良かったのだが、打ち所が悪かったのか二人はテーブルに突っ伏したまましばらく動かなかったとか……。


結局、がせっかく覚えた言葉はきっちり星辰剣に訂正され、挨拶以外は「大丈夫」や「ありがとう」の言葉ぐらいであった。











それから少しして、朝食の終えた一同はこれからサウスウィンドゥ市に旅立つ為、荷物をまとめていた。

昨日の内にビクトールがラクダを馬に買い換えており、携帯食等もフリックがすでに一通り揃えていた。
ビクトール達の用意が終わるまで、は部屋にある小さなテーブルに座って、星辰剣とおしゃべりをしながら待っている。


【 ……そう言えば、その腰に着けている物は何なんじゃ?
  変わった形の入れ物の様じゃが……? 】

【 ああ、これですか?
  これは“ ポシェット ”って言う携帯型のカバンなんです♪
  小さくても色々入れれるんですよ? 】

ほら! と言いながら、中身をテーブルの上に出して見せる
どれも見た事も無い物ばかりで、興味深々の星辰剣。一つずつ説明を求めている。




のポシェットに入っていたのは、防水腕時計、お父さんのライター、ハンカチ、ソーイングセット、万能ナイフ、ホイッスル、 絆創膏に虫メガネ。
そして、500枚入りのまだビニールケースに入った新しい折り紙であった。

それらは皆、アウトドアに行く時決まってが持って行く物である。


「何やってんだ? 変わったモン机に広げてっけど??」

「……それは、の荷物か? へぇ……、ちょっと触ってもいいか?」


荷造りが終わったのか、ビクトール達も興味深そうに寄って来たのではそれら一つ一つ改めて説明する事にした。


【 これは腕に付ける『時計』で、時間が分かる物なんです。
  それから、この『虫メガネ』は…… 】

は一つ一つ丁寧に説明を付け加え、使い方を見せている。
それを星辰剣に通訳してもらうのだが、星辰剣自身人間の生活に馴染んでない分、表現する言葉が見付からず、余り上手く伝わっていない。


だが、その中には三人が感心する物がいくつかあった様だ。
その一つが“ ライター ”であった。

半透明な小さい入れ物の中に、何やら水の様なものが入っている。
それが一体何に使う物なのか分からないビクトールは、フリックと首を傾げながらライターをいじっていた。



【 ふふ……。
  それはですね、火を点ける物で『ライター』って言うんですよ?
  ほら、こうやると火が点く……あっ!! 】

点火スイッチを押した途端、勢い良く吹き出す炎!!
火力を最大にしていた為、数十センチにも吹き上がった火は咄嗟の出来事に避け切れず、顔を近づけていたビクトールの前髪を少し焦がしてしまった。



「どわあッ!! お、脅かすなよ!」


【 ご、ごめんなさい!! 火力が強になってたみたい……
  え、えっと…… 】

「だ……だいじょうぶ!?ビクトール……さん!」


あたふたと何度も“ だいじょうぶ ”を繰り返している

それでもまだ自分の前髪を触りながらブツブツ 文句を言っているビクトールに対して星辰剣は呆れた様に口を挟んだ。


【 全く……毛がほんの少し燃えた位で大袈裟なヤツじゃ!気にするでないぞ? 】

【 で、でも…… 】


「……それにしても驚いたな!今のが魔法じゃないなんて。
 『らいたー』か…、これだったら火を熾すのも楽だろうな♪」

焦げた前髪を気にしているビクトールを他所に、フリックはライターを点けたり消したりして感心しながら眺めていた。

「…………おい、ちったぁ気に掛けてくれよな」




そしてもう一つ、三人が興味を持ったのは『折り紙』であった。

最初十センチ程の妙な膜に包まれた硬い物だったのだが、その透明な包みから取り出すと、それは色取りどりの紙の塊りだと分かった様だ。

見た事も無い鮮やかな色紙に魅入っている三人。
はそれが何に使うものなのか説明する為に、その中から青い紙を一枚取り出し、何かを作って見せた。







【 はい! お待たせしました♪ 】

にっこり笑いながらフリックに何かを手渡す。その手には、ある小さなモノが乗っていた。

――――それは小さな青い、折鶴であった…………



「……何だこりゃ??」

「紙で作った……鳥みたいに見えるが?」



それを突っ突きながら不思議そうな顔をして見ているので、はクスッと小さく笑った後、ゆっくりと説明する。

【 えっと…それはですね?
  『折鶴』って言うもので、病気の人が早く治る様にお願いする物なんです♪
 本当はもっとたくさん作らなきゃいけないんですけどね? 】



星辰剣はの言葉を早速通訳しようとしたのだが、やはり、今一つ理解出来なかった様だ。

…まぁ、少しぐらい省略しても相手がビクトール達なら大した事は無いだろうと、二人には“ 願いが叶うお守り ”だと伝える事にした。


「へぇ~! こんな物がお守りねぇ……。
 面白そうだからオレにも一つ作ってくれよ、♪」


そう言って、自分とフリックの持っている折鶴を交互に指さしながら、手を出すジェスチャーを見せるビクトール。
ビクトールの言いたい事が分かり、快く頷く

彼には服の色に合わせてなのか、黄色の折鶴を渡したのだった。


「ハイ! だいじょうぶデス、ビクトールさん♪」

「………………ちょっと、使い方間違ってるぞ?
 (何が大丈夫なんだ? まさかヤバイもんなのか、これ!?)」









そんな事もあり、そろそろ出発しようと荷物を部屋から運び出すビクトール達。
も自分の荷物を持って、先に宿屋の前に繋いである馬の所で星辰剣と待っていた。


待ってる間、改めて村の様子を見ている

異世界の家の造り、行き交う人達。
どれを取っても彼女の目には珍しい上に興味深いものに映っていた。

この村に来た時は周りを見る余裕が無くて気付かなかったのだが、映画に出てくる昔しの中国の雰囲気を 漂わせていた。

『なんとなく東洋風……って感じかな?
 私の世界と違う所って言えば、みんな背が高いって所かしら?』




最初、ビクトール達に出会って、その背の高さに少し驚いていたが、それは二人が大柄なタイプなのだと思っていたのだ。
だが、その後遭遇した盗賊達も大きかったし、今、目の前を行き交う村人達も例外なく皆、大きいのである。 


「……………………」

絶句する
165cmもある彼女は、女子高でも背の高い方に入っていただけに、少々複雑な心境の様であった。


【 ……ま! 異世界だから仕方ないわよね! あははっ★ 】


【 何が仕方無いんじゃ? 】

【 え!? なっ、何でもないですよ、星辰剣さん! あは……あははは!
 あ、あの……それより、ビクトールさん達まだかかりそうなので今の内この村の見学に行っても、いい……かな? 】

【 見学?……う~む、そうじゃな。
  さして珍しくも無い村じゃが退屈なら少し位かまわんじゃろ。
  どれ、迷子にならん様、ワシも共に行ってやろう。 行くぞ! 】







この村はサウスウィンドゥ市国でも、カラカス砂漠近くにある辺境の小さな村であった。
村人もそこそこしかおらず、民家も数十軒程しか無い様だ。

砂漠にいた時よりは日差しは柔らかくなっているが、空気はちょっとした木々に囲まれた所とは言え、そこから時折り吹く砂漠方面からの乾いた風がの髪を揺らす。
土地が痩せているのか全体的に緑や畑も少ない村の印象を受けていた。




星辰剣を抱き締め、鼻歌を歌いながら歩いている
そんな自分が村の人に注目されているとは気が付かなかった様だ。

服装はの世界の物だったので、村人達の目には珍しく映っていた。

そして、さらに注目される要因になったのは、少女には不釣合いな程大きな剣を持っていたからである。
その姿はある意味異様に見え、閉鎖的な小さな村の住人は遠巻きにそれを見て囁いているだけであった。


―――だが、どこの世界でも珍しいものには素直に興味を示し、すぐに行動するのはいつでも子供である。
そんな村の子供達が早速三人程、に近寄って来た。



「なぁ、姉ちゃん! 姉ちゃんは旅の人なのか? どっから来たんだ?」

【 えっ!? 】

ふと下を見ると、いつの間にか子供が来ていて、自分の服の裾を引っ張っていた。

初めてフリック達以外の者から話し掛けられ、かなり驚いている
彼女は初対面の者…特に男性に対して人見知りをしてしまうので、一瞬身を硬くして構えてしまった様だ。

……だが、話し掛けて来たのが子供だと分かって、ホッと肩の力を抜いた。



「なぁ! どっから来たんだ? 変わった服着てるよな!遠くからか??」

「お姉ちゃん大きな剣持ってるけど、剣士さんなの??」

「ねぇ、ねぇ! 何かお話ししてよ♪ ねぇってば!」




子供達から矢継ぎ早に質問されるが、言葉の分からないは首を傾げているばかりである。
そして少し困った様に星辰剣を覗き込んだ。

【 え……っと、何て言ったのかな?? 】

【 …………どこから来たのか聞いておる様じゃぞ?


「うわぁ!! け、剣がしゃべった!!!」

いきなり剣がしゃべリ出したので、驚いている子供達。

普通剣は生き物では無いので、驚くのも無理は無い。
驚かれるのに慣れている星辰剣は、ヤレヤレと短く溜息を吐いた後、自己紹介をしようとした、だが……。


「ワシは……」

「こいつきっとモンスターだ! だって、鬼の様な顔してるもん!!!」

「 !!!!!! 」

「うわぁ……ホントだぁ! 恐い顔してるね!」

「なっ……!!??」

「お姉ちゃんは、もしかして“ モンスター使い ”なの??」

「…………………………」




騒いでいる子供達、それに急に黙り込んでしまった星辰剣。
しかも星辰剣に至っては、いつもより三割増しに眉間に深いシワが寄っている。

……どうやら機嫌が悪くなっているらしい。
それはの目から見ても明らかであった。


【 あ、あの……星辰剣さ……ん?
  子供達は何て言ってるんですか? 出来れば通訳を…… 】

【 断る!!!! 】

【 う………… 】

ぴしゃり!と断られ、戸惑う
そんなに子供達はお構い無しにしゃべり掛けている。

『何があったのか分からないけど、すっかり怒っちゃってる……。
 う~ん、困ったなぁ。
 このまま帰っても、せっかく来てくれたこの子達に悪いし……あ!そうだ!!』




何かを思いついたのか、はポン!と手を打った後ポシェットの中を探り、折り紙を取り出した。
そして、座れそうな場所を見付けるとそこに行き、子供達においでおいでのジェスチャーをしたのだった。

最初、意味が分からなかった子供達もの側に来ると、折り紙を折る不思議なその作業に魅入っている。
少ししてからそれぞれの手に一つづつ折鶴を渡した。


「うわぁ……何だこれ??」

「紙の鳥みたいだね?」

「小っちゃくって、カワイイ♪ これ……くれるの?お姉ちゃん?」


「……それは、願いが叶うお守りじゃ、ありがたくもらっておけ!ガキども!」

今まで黙っていた星辰剣が半分怒った口調で仕方無しに説明してくれた。
子供達はそれを聞いて驚いた様に、もう一度手に持っている折鶴を見詰めた。




「へぇ~! これ、お守りなのか!? すげぇ!!」

「これにお願いすると、叶うんだ! 凄い鳥さんだね!」

「ありがとー、お姉ちゃん!」


無邪気に喜んでいる子供達を見て、も嬉しそうに笑う。



「オレ、何お願いしようかなぁ♪
 そうだ!みんなの畑にいっぱい、麦がなる様お願いしよう!」

「ボクは、お婆ちゃんが元気になってほしいんだ♪」

「あたしは、えっと……村が緑いっぱいになって欲しいな♪」


子供達の口からは皆、自分以外の者の願い事ばかりが出てくる。
それを聞いて星辰剣は少し見直した様に呟いた。


「…………気に喰わんガキ共じゃが、心根はまともなやつらじゃな……フン」

【 ?? 何か言いました星辰剣さん? 】

【 い、いや。 なんでも無い! 】



この後、嬉しそうに折鶴を持って、それぞれの家に帰る子供達。 も手を振って見送る。

【 あんなに喜んでくれて……
  子供って……世界は違っても、みんな一緒ね。フフフ…… 】

膝に残っていた折り紙をポシェットに入れていると、別のポッケの所がボンヤリと光り出しているのに気付く。
不思議に思っただったが、以前の事を思い出し、星辰剣に見てもらおうと急いで光るそれを取り出した。




【 おお!それは『希望の紋章』ではないか!?
  ……色々あって、すっかり忘れておったが…… 】

【 『希望の紋章』??そんな名前があったんですか、これ? 】

【 それにしても何じゃこれは?
  紋章の光が消えたかと思うと、周りの細工に細かい文字が浮かび上がってきておる…………
  これは!……この感じはもしかして…… 】




――――星辰剣が何かを言おうとした、その時! 村の入り口の方から人々の悲鳴が聞こえて来た。

【 な、何!? 】

【 何じゃ!? 】


慌てて振り向くと、悲鳴が上がった方角から村人達が必死になって次々と逃げて来た。

「ば……化け物だあっ!! 化け物が出たぞーっ!!!」

「化け物じゃと? まさか……」

次々と目の前を村人達が必死の形相で通り過ぎて行く。
どうすれば良いのか分からず、は星辰剣を抱き締め戸惑うばかりであった。




――ッ! 何処だ――ッ!!」

「おぉ――い! 星辰剣――ッ!!」

そんな時、逃げて来た人々の中からビクトール達の声が聞こえる。どうやら達を探しているらしい。
慌てて返事をする



「ビクトールさん! フリックさん!」


「おっ! こんな所にいやがったのか!?」

「探してたんだぞ、!!」


「……それより、一体何じゃ!?
 化け物が出たと言っておる様じゃが……」

「おっと、それそれ!
 出たんだよ!また、アイツが……あの大蛇が出やがったんだ!!」

「何だと!?」

「一度倒したはずなのに……一体何匹いるんだ、アイツらは!?」




大蛇が再び現れた事で、星辰剣が先程感じた“ 力 ”の正体が、やっと今分かった。
そう確信した彼はゴクリ と息を飲み込むと、重々しく口を開いたのだった。

「…………やはり、そうじゃったか」


「 ? 何がそうだったんだよ、星辰剣!?」

星辰剣はに、今持っている紋章を二人に見せる様に言うと、説明をし始めた。

「それは確か……『希望の紋章』!?」

「そうだ、これを見てくれ!
 ……紋章を囲んでいる細工に、文字が浮かんでおるじゃろ? 
 文字の意味や仕組みはよう分からんが、これがあの大蛇を招き寄せておるんじゃ」


「「 なんだって!? 」」


「……以前、『門の紋章』を持った魔女、ウィンディがいたじゃろ?
 あやつがその"力"を使った時に似ておる。
 すなわち……魔物の召喚魔法の“ 力 ”じゃ」

それを聞いて呆然とする二人。解放戦争の時のウィンディの“ 力 ”を目の当たりにしていただけに、一瞬冷や汗が流れた。



「……って言う事は、
 こいつが光り出すと、あの化けモンが何匹でも出て来る……って事なのか!?」

「そう言う事じゃ!
 紋章を守る為の、これもシンダル族の技術の一つじゃろ……」 


「チッ!…………でもまぁ、原因が分かりゃあやることは一つだ!
 こいつをぶった斬ってやるぜ!!」

「おい!早くしろビクトール! ヤツが来ちまうぞ!!」

「分かってるって! それじゃあ頼んだぜ星辰剣!!」


から紋章をもらう。
そして、軽く放り上げるとそこから一気に星辰剣を振り下ろした!


…………すると、紋章を囲んでいた細工はビクトールの一刀の元に両断されてしまった。その瞬間!!

中の紋章……『希望の紋章』が輝き出し、空中に浮かんだかと思うと、まるで自由を得た鳥の様にそのまま大空へと飛び去って行ったのであった。




「……お、おい、いいのか!?
 ありゃあの紋章だったんだろ? どっか行っちまったぜ?」

「……あれが本来の紋章の姿じゃ。
 宿し主は紋章自らが決める事……そうじゃ、その方が良いのじゃ」


「……そうだな。
 それじゃあ、後始末はここに呼び込む原因を作ったオレ達がするしか無いみたいだな」

「そう言う事だ!
 しゃあねェけど、被害が大きくなる前にさっさと片付けちまおうぜ、フリック!」


そう言うと、には危険だから一応村の奥に避難する様指示し、自分達は大蛇が暴れているであろう村の入り口へと駆け出したのであった。



だが、これが最悪の結末になろうとは、この時点では誰も知る由もなかった…………。











は星辰剣に言われた通り、村の奥へと避難していた。
ほとんどの村人がこちらに来ている様で、皆不安げに木々の間から村の様子を伺っている。

その中にこの村の村長らしき老人が、皆の前に進み出て、指示を出した。


「皆の衆、聞いてくれ!!
 あの化け物を退治しようと旅の剣士殿が申し出てくれた!
 今、戦ってくれている所じゃ!」

その言葉を聞いて、おお……と安堵の溜息と、歓声が沸き上がる。

「もうしばらく辛抱してくれ!
 きっと、良い報告が入って来るじゃろうから」

村長の心強い言葉に、拍手が鳴り響く。にはもちろん、言葉が分かって無かったので何の拍手か分からず、戸惑いながらキョロキョロしているだけであった。

だが、誰もがもう大丈夫だと安心しきっていたその時、予想もしていなかった事態が起きてしまったのだ!




メキメキ と木々をなぎ倒す様な、何かが近付いて来るその物音に次第に皆気付き始め、辺りを見回す。
その音の原因である、あるモノの姿を最初に発見した村人は信じられない恐怖の表情で凍りついていた。

「う……うわあ―――っ!!! 化け物だ――っ!!」


「何だと!?」

皆が一斉に、叫び声のした方に注目した!そこにはなんと、村の中にいたハズの大蛇がいたのだ!!
安心していただけに大蛇の登場は、この場にいた全ての者達をパニックにさせるには充分であった。




―――悲鳴を上げながら我先に逃げ出す人々。
余りの恐怖の為、誤って転んでしまった者の上もお構い無しに次々と踏み越えて行く……。

そんな人の波に揉まれながらも最初逃げていたのだが、転んで逃げ遅れた者の中にさっき、村で出会った子供の姿が目に入った。

【 あ……! あの子は、さっきの……!? 】

その為やっと正気に戻ったは、その子を助けようと人の波を掻き分け、必死になって辿り着こうとしていた。

自分は魔法も使えなければ、剣も振るう事も出来ない非力な人間である。その事は百も承知であった。だが……
目の前で危ない目に遭っている人や子供を見て、見捨てる事が出来ず、思わず行動に出てしまったのだ。




幸い細い木々が障害物となり、思ったより動きの遅い大蛇。それにまだここから離れた場所にいる。
その間には近くにいた倒れている人達に手を貸し、起こしていた。

「だ……だいじょうぶデスか!?」

「あ……ありが……とう……」


村人の背中を押して早く逃げる様にと、村の方を指差し微笑みながら頷く

助けた……と言っても、ただ起こしてあげただけだったのだが、それは窮地に立たされ、人から見捨てられた者にとってその気持ちが、どれ程温かく、ありがたいものだったであろう……。

『まるで、天使の様な人だ……』



そうやって何人か助け起こしている内に、ようやく先程の子供の所までやって来た。
どうやら少年は足を怪我しているらしく、泣きながら足を押さえ、うずくまっている。

【 だいじょうぶ!? 】


恐怖の為、泣きじゃくっていた少年はの声に気付き、顔を上げた。
すると、そこにいたのは先程お守りをくれたお姉さんだったのだ。

「あ……! あの時のお姉ちゃん……!?」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ……ネ?」

にっこり笑って抱き締められ、優しい言葉を聞いた少年は安心したのか、再びにしがみ付いてしゃくり上げている。
その小さな背中を摩りながら、はケガをして歩けない少年を何とか運ぼうと勢いを付けて抱き上げた。
だが、腕力の無いハズの彼女なのに、なぜか少年の体はヌイグルミよりも軽かった。


『えっ!?』


予想外の出来事に思わずその反動で、よろめいてしまう。

「きゃっ!!」


もう少しで少年諸共、倒れる所であった。―――だが……
倒れ込む寸前、誰かが支えてくれたお陰で二人ともケガをしなくてすんだ様だ。



「大丈夫ですか!?」

「え……!?」


支えてくれたのは、先程が助けた人達であった……。
彼らはが危険を省みず、懸命に人々を助けに回っているのを見て、胸の奥から熱い何かが込み上げ自分達も何かをしなくては……と思い立ったらしい。

「この子は私達に任せて下さい! さぁ、貴方も早く逃げましょう!」


何をしゃべっているのか分からなかったが、抱いていた少年を代わりに抱き上げてくれたのを見て、彼らが手伝ってくれるのだと分かった様だ。

「あ……、ありがとう……」

「お礼を言うのは、私達の方です!今はそれよりも早く……ああっ!!!」





メキメキメキ……という木が倒れる音と共に、とうとう目の前に大蛇が現れた!

その場にいた者達は皆、青くなって上を見上げたまま動かない……いや、動けなかったのだ。
ヘビに睨まれたカエル同様、恐怖で身が竦んでしまっているのである。

そんな人間達などお構いなしに、獲物を見付けた双頭の大蛇は赤い舌をチロチロと出しながら少し頭を後ろに反らせると一気に飛び掛って来たのだった!

「うわあ―――――っ!!!!」


【 やめてェ―――――ッ!!!!! 】













―――これより少し前、村の入り口にいた大蛇を難なく倒したビクトール達は一息吐いている所であった。


「ふぅ―――っ! 何とか片付いたなビクトール」

「こんなモンスターぐらい、オレ様の手に掛かりゃあ、何匹来ようが軽い軽い♪」

「よく言うのぉ……。
 貴様はただ振り回しとるだけで、ワシの力が無ければ何も出来んではないか!」

「何だと? このオレの華麗な剣裁きが無けりゃ、てめぇだって……」

「はいはい! 分かったから、もうやめろって!!
 ……今はそれより、この事を村長に知らせて来ようぜ?早く安心させてやらないとな」

いつものパターンで言い合いが始まりそうになる所を、フリックが素早く止める。
止めに入るタイミングといい、日頃やってるせいか手慣れたものである。

「……チッ! へぇへぇ、分かりましたよ。
 さぁーてと! も心配してるだろうし、行くとするか♪」




ビクトール達が剣を納めて、の待つ村の奥に行こうとした……その時!
いきなり三人の目の前に空から小さな光が降り立った。

その光は見る見る人の形になり、次第に白いドレスを着た女性の姿に変わっていった。
見覚えのあるその姿は、なんとあの遺跡で見た女性であった。


「あ! あんたは、あの時の……!?」

「もしかして……………なのか!?」


彼らの問い掛けに答える事無く、その女性は悲しそうな表情で村の奥を指差している。
そして掠れる声で、ビクトール達に訴えた。

(……早く……早く……行ってあげて……。あの人が……危ないの……)


「はぁ? あの人? それに、危ない……って何の事だ??」

(早く……あのままじゃ……早く……お願い!……)


「…………ハッ! まさか、か!?」



フリックがそう気付いた時、村の奥の方から悲鳴が聞こえて来る。
少しすると、恐怖で青ざめた村人達が転げる様に次々と逃げ込んで来たのだ。


「お、おい! 何があったんだ!?」

逃げて来た村人の一人を捕まえ、理由を聞いた。
すると、避難していた場所に化け物が現れたと言うのだ。

驚くビクトール達。
そして、いつの間にか姿を消してしまった彼女が知らせていたのはこの事だったと分かり、慌てて駆け出した。




走りながらが無事であってくれと、祈るフリック。

あの時なぜ、モンスターが他にもいるかもしれないと考えなかったのだろう?
なぜ、と離れてしまったのだろう……
そんな後悔の念が、後から後から湧いて出て来る。

フリックはふと、前にもこれに似たような想いを抱いたのを思い出した……。
何度後悔してもしきれない、そんな想いを…………。


『そうだ……オデッサを亡くした時と同じなんだ……』


決して恋愛感情では無かったが、自分が守ると決めた少女と敬愛した女性を無意識に重ね合わせていたのだ。
だからなおさら、失いたくなかった。それも、自分の知らない所で……。

『頼む……無事であってくれ! !!!』










―――――だが……フリックの願いも空しく、三人が駆けつけた時にはすでに遅く、彼らが目にしたのは大蛇に銜えられ血まみれの無残な少女の体が、その口から力なく垂れ下がっている姿であった。




「「「 ………!!! 」」」

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*******後書き*********
大変お待たせしました! すいません、遅くなりまして……(汗)
今回、最初からテンション上げて書いてしまい、だんだんヒロインが壊れていってます。
フリック達、ヒロインに振り回されっぱなしですね?(そんなフリック達の姿が良いとおっしゃる方も多い様な…?)
一応シリアス路線を考えていたのですが、予定には無い展開になってしまい、少々焦ってたりして…。

次回はいきなりヒロインさん。 思いっきり死んでます!(爆)

今度こそシリアス展開になれるよう、気合を入れねば……。
(え?シリアス書くのに気合は必要無いって?……すいません)

>20041011

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