第二章:夢と現実Ⅳ(第5話)
砂漠をひたすら北上してやっと都市同盟領内のサウスウィンドゥ市国に辿り着いた一行。
都市同盟の首都ミューズ市からはデュナン湖をはさみ、南に位置するそこはビクトールの出身国でもあった。
そのサウスウィンドゥ市よりもさらに南下した場所にある小さな村に、ビクトール達は宿を取っていた。
久し振りに人里に着いたビクトールとフリックの二人は、早速お風呂に入って長旅の汚れを落とした。
その後、宿屋の酒場で空腹を満たし、心行くまでお酒を味わっていた。
「か――――――――っ! 美味ェっ!!
この一杯に生きてるって感じだよな♪」
「く―――――っ! 本当だよな! 生き返るぜ♪」
久し振りに飲んだお酒の美味さに感動しながら語り合う二人。
よく冷えた麦酒を一気に飲み干したビクトールはジョッキをテーブルに置き、少ししてから何かを思い出し深いため息を吐いた。
「…………そう言やカガミのヤツ、
あの遺跡からこっち、だんだん元気が無くなってるんだが一体どうしちまったんだ?」
「……そうだよなぁ、
言葉は相変らず分からないが、あれだけ明るい娘だったのに、ちょっと心配だよな」
二人が心配している様に香雅美はあの遺跡から脱出した後、少しづつ話さなくなり、この村に着いた頃には全くしゃべらなくなってしまっていたのだ。
なぜなのか理由は分からなかったが、何か深く思い悩んでいる様に見えていた。
「やっぱ、ホームシックなんじゃねェの?
紋章に呼ばれた……ってあの魔術師の野郎が言ってたし、
なら、自分が好きで来た訳じゃねェハズだもんな」
「そうだな……。
なぁ、星辰剣? どうにかしてカガミを元の世界に帰してやる事は出来ないのか?
『夜の紋章』の化身のあんただったら出来るんじゃないのか?」
フリックは下を覗き込み、テーブルの横に立て掛けている星辰剣に話し掛けた。
だが、星辰剣はしばらく沈黙した後、少し言いにくそうに語った。
「……そうしてやりたいのは山々だが、あいにくワシは異世界の門を開く“ 力 ”はもっておらん。
その“ 力 ”は限られた真の紋章にしか無いものじゃからな……」
「チッ、何だよ! 使えねェジジィだな……」
何気ない小さな一言にピクリと星辰剣が敏感に反応した。
ジジイ の“ 地獄耳 ”はきっちりと、その能力を発揮していた様だ……。
「誰がジジィだ!! 貴様……死にたいようじゃな。
今ここで引導を渡してやっても良いのじゃぞ?」
ボソリとつぶやいたビクトールの“ 役立たず発言 ”に著しくプライドを傷付けられた星辰剣は、目をツリ上げ怒りの表情を露わにしている。心無しか魔力を高めている様な……?
「げっ! や、やめろ! 何こんな所で紋章発動させようとしてんだよ!?
一般の人間を巻き込むつもりか!?」
星辰剣の攻撃をなんとか回避しようと、周りの状況を説明するのだが、頭に血の昇ったジジイ の耳にはもはや届いていなかった。
「黙れ! ワシの知った事か!!」
「おい! フリック、お前からも言ってやってくれよ! マジでヤバイって!」
「お前なぁ……。
もとはと言えばあんな事言ったお前が悪いんだろ? ちゃんと謝れよ」
「なっ!? わ……分かったよ! 悪かった!この通ーりだ!
つい、本当の事を言っちまっただけなんだ……」
フリックにも言われ、仕方なく謝罪の言葉を述べるビクトール。
……だが、それが心からのもので無い事は、誰が聞いても一目瞭然である。
その事が星辰剣にも分かり、余計に彼を怒らせてしまう結果となった様だ。
「き……貴様ァッ!! それで謝っておるつもりなのか!?」
「えっ? えっ?」
「アホだ…………」
星辰剣が今にも紋章を発動させようとした、そんな騒ぎの中、やっと二階から香雅美が降りて来た。
それに気付いたフリックは慌てて席を立って香雅美を迎える。
「……カガミも風呂に入ってさっぱりした様だな?
さぁ、こっちに来て一緒に食おうぜ」
労わる様に話し掛けるフリックは香雅美を席に着かせ、宿屋の主人に食事を頼みに行った。
一騒動起こそうとしていたビクトールと星辰剣もやっと騒ぐのを止め、黙ったまま俯いている香雅美を心配そうに見ている。
【 …………………… 】
あんなに元気だった香雅美がこんなになってしまったのには理由があった。
それは…………何度目覚めても、夢だと信じ込んでいるこの世界から、目覚められなかったからだ。
目が覚める度、次こそは自分の見慣れた部屋だと…いつもと変わらない日常に戻れるのだと願っているのだが、香雅美の願いも空しく、いつまでもこの世界に居続けている。
もしかして、自分は本当に別の世界に飛ばされてしまったのでは?
……と、一番恐れている結果になろうとしているのである。
――― 剣と魔法の世界 ―――
ゲームや小説、映画等で見ていた時は、香雅美も一度は主人公になってみたいと思っていた憧れの世界であった。……だが実際問題となるとそれは別である。
どんな理由でこの世界に来てしまったのかその原因が分からない限り、帰る方法も、いや……もう二度と戻れない可能性もあるのだ。
大好きな家族や友人がいる香雅美にとって、それは耐え難い事であった。
一番考えたく無かった現実を突き付けられている今、どうすれば良いのかと途方に暮れている反面、それでもこれは夢なのだと……すがる様に、そう自分に言い聞かせている香雅美であった。
「ほらカガミ、食事だぞ!
カガミの口に合うかどうか分からないが、美味いぜこのシチュー♪」
カウンターから戻って来たフリックは香雅美を元気付けようと少しおどけて見せた。
……だが、香雅美の様子は相変らずで持って来た食事にも、手を付けようとはしなかった。
溜息を吐くフリック。
今度は堪りかねた星辰剣が話し掛けて来た。
【 ……のぉ、お主。最近どうしたのじゃ? 元気が無いので皆、心配しておるぞ?】
【 え………? 】
星辰剣にそう言われ、やっと気が付いたのか ふと、二人方をを見ると心配そうな顔で自分を見ているのに気付く。少し戸惑う様に悲しい顔をした後、香雅美はかすれた声で呟いた。
【 どうして……どうしてそんなに心配してくれるの?
……これは私の“ 夢 ”なのに………… 】
【 何……? 】
突然思ってもみなかった事を言われ、思わず聞き返す星辰剣。
【 この夢……いつになったら覚めるのかな…… 】
「お……おい! 何て言ってるんだ、カガミは?」
言葉が通じない苛立ちからビクトールは星辰剣に詰め寄った。
…………だが、星辰剣にも今の言葉の意味が理解出来なかったのだ。
戸惑う星辰剣にかまわず続ける香雅美。
【 ねぇ、星辰剣さん……。この世界は現実じゃ無いよね?
今、私が見ている“ 夢 ”の世界なんでしょ? 】
【 な……!? 】
【 本当の私は今、自分の部屋で眠っていて……朝になったらこの夢から覚めて……
お父さん達に自慢するの。『私、とっても面白い夢を見たんだよ!』って…… 】
香雅美が訴える様に話したこの言葉で、やっと何が言いたいのか理解した星辰剣は困った様に答えた。
【 …………お主、何を言っておる?
これは夢等では無く、れっきとした現実なのだぞ!? 】
【 違う!!! 】
大声を出して強くテーブルを叩く香雅美。
その拍子に手元にあったコップが床に落ち、割れてしまった。
急に目の前の少女が大声を出したのでビクトール達も驚いてしまう。
「なっ、何だ 何だ??」
【 あ……ごめんなさ…………痛ッ! 】
思わず自分のした事に気付き、慌てて割れた欠片を拾おうとした香雅美だったが、その欠片で手を切ってしまった。
ス―――ッと指からと流れる血を見て、呆然としている。
「お、おい! 大丈夫か!?」
フリックがそれを見て慌てて立ち上がり、ケガをした手に触ろうとした時、その手を払いのける香雅美。
【 嫌! 触らないで!!! 】
「…………カガミ?」
見開いたままのその目にはポロポロと涙が溢れてきている。
【 こんな……痛いなんて……やっぱり夢じゃない……の?
私……私……帰りたいッ!!! 】
そう叫んだと同時に駆け出す香雅美はそのまま宿から出て行ってしまった。
「おっ、おい! 何処へ行くんだ!?」
「おい、星辰剣! カガミはさっき、何て言ったんだ!?」
「……あの娘、やはりこの世界の事を、自分の見ている夢だと思っておった様じゃ。
帰りたい……そう叫んでおったよ……」
「くっ……!」
星辰剣のその言葉を聞いてフリックは、居ても立ってもいられなくなり、急いで香雅美の後を追い駆けて行った。
「オレ達も追い駆けるぞ、星辰剣!」
「ああ、分かった」
テーブルの後始末を宿屋の主人に頼み、ビクトール達も香雅美を探しに出掛けた。
「“ 夢 ”か……どおりで朝起きる度に元気が無くなるハズだよなぁ……。
普通の娘なら、気が変になっちまってもおかしくない状況だぜ」
今、あの小さな少女はどれだけ不安になっているのか……。
そう考えるとビクトールは香雅美が余りにも不憫に思え、胸が少し痛んだ。
誰かが少女を守ってやらないと……そんな想いが彼の頭を過り、ある決心をするビクトールであった。
【 帰りたい! 私を元の世界へ帰して!! 】
小さな村の中を走り抜け、泣きながら林の中をあてども無く彷徨う香雅美。
そんな香雅美をやっと見付けたフリックは、急いで追い駆ける。
戦場で鍛えた剣士の足は、あっと言う間にその距離を縮め、林を抜ける前に何とか少女に追い付いた様だ。腕を掴まれ、引き止められる。
「待てよ、カガミ! 一体どこへ行くつもりなんだ!?」
【 放して! 放してよ!! 】
お互い言葉は通じていなかったのだが、今はそれ所では無いとフリックはそのまま話し掛けていた。
「今ここから出て行ったとしても、カガミの世界には帰れないんだぞ!?」
取り合えず落ち着いてもらおうと彼女が逃げない様に両手を掴み、自分の方に体を向けさせ話し続けている。
……だが、香雅美は首を振って知らない言葉で喚き散らし、フリックから逃れようと暴れているだけであった。
「なぁ、気持ちは分かるが頼むから落ち着いてくれ!
村の外にはモンスターもいるんだ、危ないから……」
【 いやっ!! 私、帰るんだから!! ここから帰るんだからッ!!! 】
「カガミ!!」
パァン……!
軽く何かを叩く音が響き、今まで暴れていた香雅美の動きが止まる。
それと同時にフリックは自分の行動に驚き、その戸惑いの表情のまま自分の手を見詰めている。
……どうやら先程の音はフリックが香雅美の頬を打った音の様であった。
「あ…………」
【 あ………… 】
フリックに打たれた事により、やっと我に返る香雅美は頬に手を当てて呆然と彼の方を見詰めている。
そんなに強くはなかったが、正気に戻るには十分であり、色白の香雅美の頬は少し赤くなっていた。
「す……すまん!!つい……、わ、悪かった!悪かったよ、カガミ!」
フリックの方も自分が思わず取ってしまった行動に、罪悪感を感じてかなり慌てていた。
相方のビクトールが乱心したのなら、遠慮なく力の限り殴り飛ばすのだが、なにせ相手は少女である。
今まで女性に手を上げた事の無いフリックにとって、これはショッキングな事であった様だ。
あたふたと、心配そうに身を屈めて香雅美を覗き込んでいる。
そんなフリックを見詰めている香雅美。
呆然と見開いた揺れる瞳からはいつしか、ポロポロと大粒の涙が零れた。
【 わ……たし……帰りたい……。 みんなの所に……帰りたいの……。
…………どうして、この世界に来ちゃったの? どうして……………… 】
そう問いかける様に小さく呟いた後、両手で顔を覆って弱々しく泣き出す香雅美。
目の前で肩を震わせながら、すすり泣く小さな少女を見て気の毒に思うフリック。
先程から何度も繰り返し聞く言葉……それは宿屋から飛び出す時に聞いた“ 帰りたい ”と言う言葉であった。
見知らぬ世界に、それも少女の意思を無視して連れて来られ、どれだけ不安になっているのか……。
本来いるべき世界には、家族や友人もいるのだろう。
その者達と無理矢理離れ離れにされ、どれだけ悲しい思いをしているのか……
そう思うと切なさで胸が一杯になり、思わず少女を抱きしめた。
そして子供をあやす様に、優しい声で話し掛ける。フリックのその瞳にはある決意が浮かんでいた。
「………大丈夫だ、カガミ。 きっと帰れるさ!
オレが……オレがお前の帰れる方法を必ず見付けてやる……
この世界にいる限り、オレがお前を守ってやるから……
だから、安心してくれ…………な?」
ふんわりと、まるで包み込む様に抱きしめられ、腕の中で優しく語り掛けられた香雅美は、その声に気付き、泣くのを止めてフリックを見上げた。
【 ……フリック……さん? 】
「大丈夫だから……な?」
優しく微笑みながら自分の頭を撫でてくれている彼を見て香雅美は、言葉こそ通じなかったが自分を安心させ様としてくれているのが分かった。
そして間近にある、その彼の微笑みに思わず見惚れてしまう。
フリックの腕の中で最初出会った時の事を思い出す香雅美。
その時も自分を怖がらせない様、優しく思いやってくれたフリック。
……そして今も、自分を見失って泣き喚いているのをしっかりと受け止めてくれたのだ。
『この人は……なんて優しい人なんだろう……。
この人の腕の中にいると、とっても落ち着く…………』
温かい気持ちが胸一杯に広がり、目を閉じると再び涙が溢れてしまう。
……だが、この涙は先程とは違い、彼の優しさに心から感謝する喜びの涙であった。
【 ありがとう、フリックさん……ありがとう………… 】
香雅美が泣き止むまで、フリックはいつまでも香雅美の背中を優しく撫でていてくれたのだった。
しばらくして、村に戻ると村の入り口で心配そうにビクトールが待っていた。
香雅美達の姿を見付けて、急いで駆け寄って来る。
「お――い、フリック! 見付かった様だな」
「ああ、やっと落ち着いてくれたよ」
「そっか、そいつは良かったぜ! ははは!」
ホッとした後、嬉しそうに自分の頭を撫でるビクトールを見て、彼も心配して探してくれていたと分かり申し訳無い気持ちになってしまう香雅美。
【 ビクトールさん、あの……ご、ごめんなさい! 心配掛けてしまって…… 】
申し訳無さそうに深々と頭を下げる香雅美を見て、ビクトールは困った笑みを浮かべ肩を竦めた。
そんなビクトールにフリックが少し言いにくそうに話し掛ける。
「……なぁ、ビクトール?
その……カガミの事で色々考えたんだが、彼女が自分の世界に戻れるまで一緒にいてやろうと考えてるんだ。
もし、お前が嫌ならここで別行動にしてもいいんだが、その……どうする?」
「へ??」
ビクトールはフリックがいつになく遠慮がちに言うので、思わず気の抜けた返事をしてしまった様だ。
だが、すぐにその後吹き出し、豪快に笑い声を上げた。
「プッ……! ククク……はーっはっはっは!!!」
腹を抱えて笑うビクトールに呆気に取られるフリック。 香雅美に至っては何が何だか分からないので呆然としている。
「おい! 何笑ってるんだよ!」
「……いやぁ、悪ィ悪ィ! お前とはつくづく気が合うと思ってな。
ちょいと嬉しかったんだよ!」
「気が合う……って、まさかお前も考えていたのか!?」
「そういう事だ♪
……別行動だって? ハッ!水くせぇヤツだな! 仲間だろオレ達ぁ?」
「ビクトール…………」
バンバン!とフリックの背中を叩くビクトール。お互いフッ……と笑った後、香雅美の方に向き直る。
「……と、言う事だ! これも何かの縁だろうよ。
お前さんの帰れる方法が見付かるまでオレ達が面倒見てやるよ!
…………だから安心しろよな?カガミ」
ニッと楽しそうに笑い掛けるが、言葉の分からない香雅美は首を傾げている。
困った様に星辰剣の方を見ると星辰剣は、小さく溜息を吐いた後、通訳をしてくれた。
【 お主が元の世界に戻れる方法が見付かるまで、面倒を見てやる……
と、この男共が言っておる 】
それを聞いて驚いた顔で二人を見詰める香雅美。
【 ええ!? そんな……
見ず知らずの……それも得体の知れない人間なのに、いいんですか?? 】
不安気に問い掛ける様子を見て、少女が何を言ってるのか何となく分かり、彼女の頭をくしゃりと撫でながら笑って答えるビクトール。
「ああ! お前さん一人養う位、どうって事無ェよ。心配すんな、カガミ!」
笑って頷く彼を見て、香雅美の方もビクトールが何を言ってるのか分かり、嬉しさの余り思わずビクトールの首に抱きついた。
普段、親しい者以外……特に男性なんかには決して見せない姿なのだが、余程嬉しかったのかビクトールの頬に何度も感謝のキスをしていた。
【 ビクトールさん!! 】
「わっ! おっ……おい、おい!!」
【 フリックさんも、ありがとう!! 】
「うわぁッ!!!」
香雅美の熱い抱擁に驚く二人。
特にフリックの方はこういう事にに慣れていない分、かなり驚いてしまっていた様だが……。
【 ビクトールさんも、フリックさんも……本当に……本当にありがとう……】
二人の優しさに心を打たれ、何度もお礼を言う香雅美であった。
それから宿屋に戻ったビクトール達は、香雅美の事が無事一件落着したので、もう一度改めて飲み直しをする事にした。
上機嫌でお酒を飲みながらこれからの事を話し合っていた。
香雅美は同じテーブルに着いていて、向かいの席で星辰剣と何やら話し込んでいる。
時々微笑む彼女を見て、どうやら彼なりに励ましてやってるのだと分かった様だ。
話は変わるが……香雅美が一人増えた事で金銭面の心配が考えられたのだが、なんとビクトールはあの遺跡から脱出する際、混乱に紛れて、ちゃっかりと宝石をいくつか拝借(?)していたのだ!
これにはフリックも星辰剣も呆れ返っていた。
「…………お前なァ。死ぬかもしれない時に何やってるんだよ!
……さすがと言うか……まあ、お前らしいけどな」
「へへへ♪ 転んでもタダじゃ起きないんだよ、オレ様はよ!」
「…………呆れてものも言えん……ハァ……」
「…………まぁ、お陰で資金面はしばらくの間持ちそうだが、これからどうするつもりなんだビクトール?」
「そうだなぁ……。
ここ、都市同盟のサウスウィンドゥ市にでも行って、昔世話になった人に会おうと思ってる。
そこで働き口でも紹介して貰うぜ!」
「そうか、サウスウィンドゥか…………」
南のトラン共和国から来たフリックにとって、見知らぬ土地であるこの地に来て、少し不安になりながらも、これからの事について色々と考えを巡らせていた。
『まぁ……どっちにしろ、オレ達は剣以外生きていく術は知らないんだ。
傭兵かもしくは警備兵か…………ん?』
ふと、ビクトールの方を見るとつまみを食べながら、先程から香雅美をジィーッと眺めているではないか、不思議に思ったフリックは何気なく聞いてみる。すると…………
「へ? い、いやぁ、ちょっとな! その……考え事をしてたんだよ!」
「お前が考え事だって!?
フッ!珍しい事もあるもんだ…………で、何考えてたんだ?」
「珍しいって、お前なぁ……。
ん~~~その……なんだ。カガミって歳いくつなんだろうと思ってな」
「はぁ???」
意外な事をいきなり聞かれ一瞬固まった後、眉間にシワを寄せるフリック。
少し戸惑いながら答える。
「そ、そうだな……。 見た所十四・五才……って所じゃないのか?
…………って、何でそんな事考えてるんだ!?」
「え!? は…ははは! べ、別に……何でもねェよ?」
何かごまかす様に笑いながらお酒を呷っている。その目はどことなく落ち着きが無い様な……。
『ん? もしかして…………』
フリックは今まで共に旅をしていて、今と同じ様な光景を目にした事があったのを、ふと思い出した。
あの時は立ち寄った街の“ 遊里 ”……いわゆる男達の憩いの場、歓楽街★ での時だったのだが、フリックが止めるのも聞かず、ビクトールは一週間程同じ店に入り浸った事があった。
解放戦争で稼いだ大金を持っていたという事もあり、ついサイフのヒモも緩んでしまっていたのだろう。
呆れるフリックを他所に、彼は心行くまで青春(?)を謳歌していたのであった。
そして一週間後。
街の宿屋で星辰剣と待っていたフリックの元にやっとビクトールが現れた。
だが、久し振りに会った彼の口からとんでもない事を聞かされてしまったのだ。
「悪ィ、フリック! オレ……ここに残るわ」
いきなりなぜ彼がこんな事を言い出したのか、言いにくそうにしているビクトールを問い詰めてみると、ここ一週間入り浸っていた相手になんと! 子供が出来てしまったからだと言う……。
女遊びはするビクトールだったが、この辺は彼なりに“ 男の責任 ”と言うものを考えていたらしい。
「……………………」
絶句するフリック。
あわや、コンビ解散か!?……と思われたその時、星辰剣という救世主が現れたのだ!
この時の星辰剣の一言が無ければ今の彼らは無かったであろう。
「…………貴様ら、何寝ボケた事をいっておる!
たった一週間で赤子なんぞ腹に宿るか!!」
「「 何ィッ!? そうなのか!? 」」
基本的(?)な事を今一つ分かってなかった二人は、この後星辰剣に懇々と説教じみた事を言われながら、女に騙されていた事にやっと気が付いた様だ。
後で詳しくその相手に話を聞いてみたのだが、どうやら女はからかっていただけだと笑いながら答えてくれた。
――――そんな苦い思い出が蘇り、フッ……と口元を緩ませるフリック。
『あの時はホント参ったよな。
…………って、思い出に浸っている場合じゃないだろ、オレ!
今はこいつの事を考えてたんだよな?
そうだ、女が絡んだ時と似てるんだよ! 結婚を考えてたあの時と……』
『………………結婚?』
「ハッ!! お前、まさか……。
やめろ!! お前、どれだけ歳が離れてると思ってるんだ!?
相手はまだ子供だ!犯罪になるぞ!!!」
「はあ??」
いきなりフリックが立ち上がり、隣にいた自分の胸倉を掴むと、思いっきり前後に振られてしまう。
ビクトールはフリックの勢いに押されながらも、彼の言葉の意味が理解出来たのか、呆れた様に答えた。
「おっ、おい!落ち着けフリック! ……お前、何カン違いしてんだ?
オレはただ……さっきカガミに抱き付かれた時、
身体つきが意外と女っぽかった……って言いたかったんだよ!」
「なっッ!?」
真っ赤になるフリック。それはカン違いして恥ずかしかったからなのか、それともカガミの身体つきを想像してしまったからなのか分からないが、言葉に詰まって焦っていたのは確かであった。
「………………………………」
二人のやり取りを聞いていた星辰剣。
ヤレヤレと深い溜息を吐いた後、香雅美に彼らが疑問に思っていた先程の質問をしてみた。
「な……何だと!?それは本当か!? …………し、信じられん」
香雅美の答えに思わず通訳を忘れて、驚きの声を上げる星辰剣。
その声にビクトール達も注目する。
「何が信じられねェんだ? 星辰剣??」
「貴様らが煩いのでワシが代わりにカガミの歳を聞いてみたんじゃ……」
「で、いくつだったんだ?」
「………………十八才……だそうじゃ」
「「 な、何ィ!? じゅ……十八ぃィッ!!?? 」」
意外な答えに、ビクトールとフリックの驚きの声は宿屋中に響き渡っていたのだった…………。
*******後書き*********
今回ギャグで始まり、ギャグで締めくくりました!
今までフリックドリームのはずなのに、余り目立ってなかったフリックさん。
やっと、(少しだけだけど)アピール出来ました♪
後半は、微妙にアダルト表現がありますが、娘曰く、「全然OK★」だそうです。
三十路の大の男が…それも、ビクトールなら絶対歓楽街ぐらい行ってると思います!
フリックの方は…う~~ん、どうでしょう?
一度は行った経験有ると思いますが、性格上合わなくって、今はストイックなんじゃないのかな?
オデッサの事もあるし……皆さんは、どう思います?
>20040928
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