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第二章:夢と現実Ⅲ(第4話)

―――――驚いて目を見開いているビクトールとフリックの目の前には、の首根っこを後ろから掴み、それを高々と片手で上げている男の姿があった。


その男は盗賊達と一緒にいた魔術師である。

ビクトール達は突然現れた魔術師に向かって素早く剣を構えた。




いくら強力な魔術が使えるといっても、二人同時に相手をする事は容易ではない。
その上、手足れの剣士達である。不利なのは目に見えて分かっているハズ。

……だが、男の方はそれを見ても顔色一つ変える事無く、平然としている様だ。


【 うぅ……っ 】


「フフフ……。やはり他にも“ ねずみ ”が隠れていましたか。
 どうやらこの娘の『持ち主』のようですね?」




に対する男の言葉に少し首を捻りながら二人は、眉を顰めた。

「持ち主?? ……何の事か知らないが、をどうするつもりだ!!」

「放しやがれこの野郎!!」




ビクトール達のセリフを聞いて男は短く鼻で笑うと、苦しそうにもがいているを手元に抱き寄せ、うっとりとした表情でつぶやいた。

【 あっ…! 】

「お断りします。……この娘はここに祀られている『真の紋章』に選ればれた娘。
 そう……新たな『ルルドの女神』となるとなる娘なのですよ!」


「何ィッ!? ルルドだと?」


「真の紋章に選ばれた……って、どう言う事だ!?」


その名を聞いて驚く星辰剣は、眉間にシワを寄せてボソリとつぶやいた。

「やはり、先程現れた女はあのルルドか……。
 その紋章がこんな所に眠っておったとは……」



星辰剣がいきなり知っている者の様に言い出したので、ビクトールの方も驚いて聞き直している。

「おい、何だよ! そのルルド…って女神さん、知っているのか星辰剣!? 」


「ああ……。その昔、『真の紋章』を宿した悲劇の女の名じゃよ」

「悲劇……って??」



昔しの記憶を辿る星辰剣は、少しの間黙り込んだ後、ゆっくりと話し始めた。

「直接会わんかったので、良くは知らんが……
 その女と“ 契り ”を結ぶ事で“ 不老 ”は元より、
 他の『真の紋章』には無い“ 不死 ”と絶大なる“ 力 ”を手に入れる事が出来ると言われておった」


「「 ちっ……契り!!?? 」」

“ 契り ”とはいわゆる男女の交わりの事であり、少なくとも経験のある二人にはその意味が分かったのか驚いて、思わず大声を出してしまった様だ。

それを見て呆れる星辰剣。短い溜息を吐いた後、再び語り出す。


「…………だが、その為に女を巡って争いが起こり、それを嘆いた女は自害したとか、
 その“ 主 ”に殺されたとか聞いておる……」




「ほぉ……良くご存知ですね? さすがは『夜の紋章』の化身だけのことはある」

今まで黙って聞いていた男は、目を細めながら星辰剣を見て冷たく笑っている。


「お前、星辰剣の事知ってるのか!?」

「ええ……『真の紋章』の一つですよね?
 まさか一介の剣士が持っているとは思いも寄りませんでしたがね。フフフ……」






魔術師とビクトール達のやり取りを聞いていただったが、全く言葉が通じないので自分が話の中心になってるとは思ってもみなかった様である。

懸命に男の腕から逃れようともがいている。……だが、腕は石の様に冷たく、びくともしない。


『この人の体……凄く冷たい。人の体温ってこんなに低いものなのかな?
 それに……何だろ? 少しだけ何か生臭い匂いがする……??』






ビクトールはチラリと奥の部屋を見た。
盗賊達はまだ財宝に夢中になっていて、どうやらまだこちらには気付いていない様である。


『あいつらがこっちに気付く前にさっさと退散しねェと、ヤバイよな……。
 こいつも紋章宿して何かややこしそうだし……。

 よし!紋章には紋章だ!! ここは一丁このじーさんに頼るとするか!』

そう考えたビクトールは星辰剣に一言声を掛けた後、改めて男に向き直り、剣を構え直した。




「……と・に・か・く・だ!
 そんな訳の分かんねェ紋章なんざに宿させねェよ!
 諦めてこっちに返してもらおうか?
 じゃねェと、こっちにも考えがあるぜ? え?」

ニヤリと不敵に笑うビクトール。星辰剣も少しづつ光り出し、魔力を高め出している。

星辰剣が『真の紋章』だと知っている相手ならこれだけで怖気付いてを解放すると考えていた。
だが、なぜか男は怖気付くどころか余裕の笑みを浮かべて、何が可笑しいのか小刻みに肩を震わせて笑っている。



「ク……ククク。
 諦める?とんでもない!こんな千歳一遇のチャンスを手放す訳が無いでしょう!?
 五百年近く人を拒み続けていた『真の紋章』がやっと、人の前に現れたのですよ?

 私の探し求めていた『希望の紋章』がね!!」


「何ィッ!!『希望の紋章』だと!?」


魔術師の言葉を聞いて驚く星辰剣。その為、今まで高めていた魔力もあっさり消えてしまった様だ。
ビクトールもフリックもその紋章の名を聞いて、え?という顔をする。



「『希望の紋章』って、もしかして……」

「星辰剣! お前が言ってたの紋章じゃねェのか!?」


「あ……ああ、だが……」


「それじゃあ、さっき見たアレはやっぱりだったのか!?」

「確かに言われてみれば、似ている“ 気 ”は発してはおったが……しかし……!!」





魔術師は敵である自分に、対峙しながら三人で言い合っているビクトール達を見て、少し呆れた様に肩を竦めた。

「…………何を訳の分からない事を言い合っているんです?
 私の言っている事が信じられないのでしたら、これを見るといいですよ。フフフ……」


を左腕に抱えたまま、右手で胸元からある物を取り出す。それを見てさらに驚く星辰剣。

「そ……それは!!!!」



男の右手に掲げている物……それは、ビー玉の様な物が中に入った金細工の首飾りであった。
その作りはまるで、中のものが逃げ出せない鳥カゴの形の様にも見える。


「フフフ、驚きましたか? そうです、これが『希望の紋章』です。

 普通なら宿し主がいなくなれば、紋章自身は封印球となって地中深く身を隠したりするのですが、
 ここの遺跡を見ても分かる様に、シンダル族の技術がそれを可能にしたのですよ」


「シンダル族!? この遺跡はシンダル族が造った物なのか!?」


「そうですよ? 貴方達はそんな事も知らずにここへ来たのですか!?

 …………おかしいですね?
 この異世界の娘を遺跡に連れて来たので、てっきり貴方達も私と目的が同じだと思ってましたが……
 どうやら違った様ですね」



「……って、ちょっと待てェ! 今、何の娘だって言った!?」

「異世界……って聞こえたが、一体何の事だ!?」


「おやおや……それすらも知らなかったと? フゥ……呆れますね。
 仕方無い、特別に教えてあげましょう。

 この娘は、この『希望の紋章』が召喚した異世界の娘です。
 その証拠にほら……先程より紋章が反応しているでしょう?」



「「 !!!!!! 」」

魔術師が言った様に、その手に持っている紋章がぼんやりと光り出しているのが分かる。


……だが、いきなり突拍子も無い事を言われ戸惑うビクトール達。

それもそのはず、の事は星辰剣からは“ 遠くの別の大陸から魔法で飛ばされた娘 ”と言う説明を受けていたからだ。




「おいおいおい!星辰剣!
 あの時別の大陸から来た……って、そう言ったよな?」

「ああ……」


「……んじゃ!
 今、こいつの言ってる事は一体どういう事なんだよ!? あぁ?」

ビクトールは眉間にシワを寄せ、いぶかしげに星辰剣を睨み付けた。
それに対して星辰剣の方は、少しだけ後ろめたい事でもあるのか、何気に視線を逸らしながら答えている。



「……そやつの言ってる事は本当の事じゃよ」

「「 何いィッ!!?? 」」

これにはフリックも驚いている。



「本当の事を話しても、貴様らの知能の低い頭では理解出来んと思ってな。
 ……まぁ、後で少しづつ話すつもりだったんじゃよ」

「……んだとぉ? じじい! てめェ~ッ!!」

「誰がじじいだ!! 取り消せ!!!」

「お、おい!やめろ二人とも!!」







緊迫したこの状況で突然、ビクトールが星辰剣に何か怒鳴ったかと思うと、その剣の柄をまるで人の首を絞める様に 前後にブンブンと振り出したのだ。驚いている


【 ビ……ビクトール……さん?? 】

言葉が分からないは話の内容が全く掴めず、なぜビクトールが内輪もめをしているのか理解に苦しんでいた。



『ど……どうしちゃったのかな?
 今ってケンカなんかしてる場合じゃ無い……よね? 普通……。
 それとも何か特別な理由があって…………ん!?』

ふと、何かに気付き魔術師を見上げる

魔術師の方も案の定、呆れ返った顔でビクトール達の方を見ていた。
その為、自分を掴んでいる腕の力も先程より、かなり緩んでいる。



『これねッ!!!』


瞬時に、これは魔術師を撹乱する作戦なのだと理解した




…………実際の所、とても大きな誤解をしているのだが、前向きな彼女の性格上こう考えてしまった様だ。






―――その後、とったの行動は素早かった!―――



それは超が付く程の運動オンチな彼女が、これまで見せた事の無い動きであった。

もし、ここにの兄や友人がいれば、皆一同に“ ぅおっ!? 信じられねェ! ” と言ったに違い無い、そんな俊敏な行動であった……。



は口を大きく開けたその後、自分を掴んでいる魔術師の腕にガブリ!と噛み付いたのだ。


「!!!!!!!!」

ビクトール達に気を取られていた魔術師は、いきなりの事で驚き、思わず掴んでいた手を離してしまう。
そのスキを見逃さなかったは、急いでビクトール達の方に駆け出した。


【 きゃっ!! 】

「なっ!? ま、待て! それは!!」


一瞬髪に何か引っ掛かった感じがしたのだが、今はそれ所では無かったので夢中で逃げる

少し遅れて魔術師はの後を追い駆けるが、手を伸ばした先には今まで内輪もめをしていた剣士達がいて、彼らに阻まれる事となってしまった。



「おっと! ここから先には行かせねェぜ?」

「残念だったな、は諦めてもらうぜ!」


「チッ……!」

剣を突き付けられ、不快そうに眉を寄せる魔術師は小さく舌打ちをする。




剣を構え、魔術師を牽制しながらビクトールは、自分達の後ろで息を整えているを褒めた。

「それにしても、やるじゃねェか
 いつの間に逃げ出したのか見てなかったけどよ。ハハハ!」

「……それはお前が、あんな事してるからだろ?……ったく!」



二人の言葉を肩で息をしながら聞いていたが、さっぱり分からないので首をかしげていた。
それに気付いた星辰剣は言葉を代えてに伝える。


【 ……すまん。ワシもちゃんと見てなかったのだが、よく逃げ出せたな、お主! 】

【 何言ってるんですか!
  ビクトールさん達があんな作戦立ててくれたから逃げれたんですよ! 】




【 ?? ……あんな作戦?? 】




【 やだぁ、もう! ワザと二人でケンカして気を逸らしてくれたんでしょ?
  アレ、本当にケンカしてるみたいで、すっごく真に迫った演技でしたよ!
 さすが星辰剣さんですね♪」

グッ! と親指を立てながらウィンクをして、やったね★ ポーズをしている。




【 …………い、いや。あれは…… 】

どうやらはあのケンカを作戦だと勘違いしているらしく、キラキラとした尊敬の眼差しで見ている。


【 うっ……………… 】

今更それは誤解だと言えなくなってしまった星辰剣、この後の言葉が見付からず戸惑っていたが、……ふと、の髪に何か引っ掛かっているのを見付けた。




【 ん? それよりもお主、何を髪にぶら下げておるんじゃ?? 】

【 え? 】



が自分の頭を探ってみると、左側に星辰剣が言う様に何かぶら下がっている。
手に取るとそれは何と、魔術師が持っていたハズの『希望の紋章』であった。
先程逃げる際、髪に引っ掛かっていたのはどうやらこれだった様だ。


【 こ……これって、あの人が持ってた物?
  ……あれ?何か金の細工の部分に細かい文字の様な物が浮かんできた……何だろ?? 】



見た事も無い文字に目を凝らすと、今まで光っていた紋章の光が消え、代わりに光る文字がくっきりと浮かび上がってきたのだ。

【 え……? 】




紋章の異常に気が付いた魔術師も、その様子に驚いて目を見開いている。

「!? そ、それは……」


魔術師が何かを言い掛けた時、いきなりそれは起こった!




ゴゴゴゴ…… と、少しづつ遺跡全体が揺れ出し、次第にその揺れは大きくなって来る。
これには宝物に夢中になっていた盗賊達も、やっと異常事態に気付き、財宝を運ぶ手を止め、辺りの様子を不安そうにうかがっていた。

「な……何だ!? 地震か??」




―――――――その時。
大音響と共に財宝のある部屋の壁を突き破って、信じられない生き物が現れた。



「「 !!!!!!!!!!! 」」


崩れた壁の砂煙の間から姿を現したのは、十数メートルは有に超える大きな大蛇であった。
驚くべき事にその大蛇は何と、頭が二つもあったのである。


緑色の地に赤の模様が毒々しく見える大蛇は、ゆっくりとその頭をもたげ、自分を見詰める人間達に顔を向ける。
そのあまりの恐怖に目を見開き、動けずにいる盗賊達。

だが、大蛇はそんな人間達にお構い無しに赤い舌をチロチロと覗かせたかと思うと、いきなり!襲い掛かって来たのだった。


「 !!!!!! 」


近くにいた盗賊が、アッ!という間に飲み込まれてしまう。

「う……うわあぁぁぁーっ!!!!」

「ひ……ひいぃーっ! 化け物だぁっ!!!」



逃げ惑う盗賊達に、容赦なく襲い掛かる大蛇は二つの頭を素早く使い、次々と飲み込んでいく。

「チッ!……やはり、シンダル族の造りし遺跡だけありますね。
 “ 宝 ”に罠が仕掛けられていたとは……」


そう小さく舌打ちした後魔術師は、素早く右手を大蛇に掲げて詠唱を始めた。
手の甲の紋章がボンヤリと光だし、次第に右手全体が光に包まれる。





―――だが、危険を察知したのか自分を害する者を排除しようと大蛇は、突然魔術師に向かって牙を向いて来たのだ。


「!!!!!!!」


「まずい!!」

瞬時に危険だと判断したフリックは、すぐ後ろに立ち竦んでいたを抱き上げ、少し離れた柱の陰に一気に飛び込んだ。

ビクトールも同じく、別の物陰に隠れている。


術に集中していた分、反応が遅れた魔術師は大蛇の振り上げた巨大な尾に吹き飛ばされてしまった。
壁に強く打ち付けられると同時にゴキリ!と骨の折れる嫌な音が鳴る。

「ぐあッ!!」

短くうめき声を上げた後、そのまま魔術師は動かなくなってしまった。





【 ひっ……! 】

それを間近に見ては思わず悲鳴を上げそうになるが、咄嗟にフリックが口を押さえてくれたので、なんとか叫び声が大蛇に聞かれずにすんだ様だ。

大蛇は一度こちらの方を見回した後、誰もいないと判断したのか、まだ逃げ惑っている盗賊達のいる部屋へとすぐに戻って行った。





盗賊達の断末魔が聞こえる中、物陰から大蛇の様子を伺っているビクトール達。


「おいフリック! 逃げるなら今の内だぜ!」

「ああ、あいつらに気を取られている今なら大丈夫そうだな。気の毒だが……」


お互い頷いた後、まだ呆然としているを連れて急いでその場から離れるのだった。

フリックに腕を引かれながら走っている。 さっきから自分の目の前で起きている信じられない惨劇に、戸惑いの色を隠せない様である。

『一体何が起こっているの?
 こ……これって………本当に夢なの!?』


遺跡の入り口には、逃げ損ねた盗賊達の分のラクダがまだ何頭も残されてあった。
これ幸いと、ビクトールは一頭に自分達との荷物を素早く括り付け、別のもう一頭に乗り込む。

フリックの方にはが乗っている。どうやら一人では乗れなかったらしい…。
そして準備が整ったので、大急ぎでその遺跡から逃げ出すのであった。









「イヤッホーッ♪ あいつらが乗って来たラクダがあってマジで助かったぜ!!
 これで何とか逃げ切れそうだな!」

「本当だな、あのままじゃオレ達も殺られてただろうな…。
 あんな化け物相手にするのは解放軍の時以来だ。今思い出しても寒気がするぜ!」

そう言って肩を竦めた後、フリックはあの遺跡での事を思い返す。



『……しかし、あの魔術師も気の毒なヤツだったよな。
 やっと手に入れた真の紋章だったのにあんなに呆気無く死んじまったもんな。

 …………そう言えば、あの時現れた女……
 あいつはルルドと呼んでいたが、あれは解放軍にいた精霊じゃないのか?
 もしそうだとしたら、ずっと聞きたい事があったんだが……。

 もうオレ達の前には現れてくれないんだろうか?
 ……“ トランの天使 ”…………』


切ない気持ちになり、寂しそうにフリックはラクダの手綱をぎゅっと握り絞めた。




ふと、自分の前にいる少女を見るフリック。
最初、余りにとそっくりなので、てっきり彼女だと思ってしまっていたのだ。


―――だが、少女にはが宿していたという『希望の紋章』も無い上に、信じられない事だが異世界から来た人間なのだと言う……。

『確かに……あの現れ方は普通じゃなかったよな……』


以前いた解放軍でも『瞬きの紋章』や転移魔法を見た事があったのだが、その内のどれとも違う様なのである。

『それに、『希望の紋章』に呼ばれた……って言っていた。
 新たな“ ルルドの女神 ”になるのだと……ん!?』


振り落とされない様、必死にラクダの鞍にしがみ付いているの髪に何か絡まっているのを見付ける。
それは先程、魔術師が持っていた『希望の紋章』だったのだが、脱出の騒ぎでそのままにされていたらしい。

「ん……? 何だ?? 金細工の部分に何か文字の様なものが浮かんで…………」


それを触ろうとした時、いきなりビクトールの慌てた声が聞こえて来た。



「うわあっッ!! 来た来た来た来たあッ!!!!」


「え……? 何……って、げっッ!!! もう来たのか!!??」




ビクトールの見ている方を振り向くと、なんと、さっきの大蛇が砂煙を上げながら追い駆けて来たのだ。
どうやら、遺跡に残っていた侵入者達を全て、片付けたらしい……。

「チッ! あの化けモン、遺跡から出て来れるのかよ!
 ……こりゃ、計算外だったな」



しばらく振り切ろうと走っていたが、徐々にその距離が縮まって来るのを見て、舌打ちをするビクトール達。

「クッ! このまま逃げても追いつかれて食われるだけだ!」

「チッ! 戦うしかねェって訳かよ? 仕方ねェなぁ……」



二人は観念した様に逃げるのを止め、ラクダから飛び降りた。
呆然としているにラクダの手綱を持ってもらい、自分達は大蛇に向かって駆け出したのだった。





二人の様子から、大蛇と戦うのだと分かったは、息を飲んでラクダの手綱を握り絞めながら、見守っている。

『え? え? ……まさか、あんな大きな大蛇と戦うつもりなの!?
 大丈夫なのかな、二人とも……』




の心配を他所に、勢い良く突っ込んで行くビクトール達。

少し手前でフリックは立ち止まり、右手を掲げて詠唱し始めている。
その間ビクトールは、大蛇の攻撃をかわしながら近づき、毒々しい色の体を手当たり次第に星辰剣で斬り付けていく。

星辰剣は並の剣とは違うので、硬いウロコも簡単に切り裂く事が出来たのだ。
次々と体を斬られ、たまらず叫び声を上げながら身を捩る二つの頭。

そんなビクトールの剣さばきに魅入っているは、すっかり興奮状態になっていた。


『すっ……凄いッ! 映画の戦いのシーンより迫力満点だわっ!!』


キラキラした瞳で見詰める中、何をしているのかとフリックの方を見ると、彼の右手がだんだんと光出してきたのに気付く。

ふと……空を見上げると、大蛇の上空を中心に黒い雲が、ゴロゴロと音を立てながら集まり出している。


『こ……これって、まさか……ファンタジー小説や、ゲームによくあるアレなの?
 ねぇ!アレなの!?』






だんだん弱ってくる大蛇は、動きがかなり鈍くなってきた様だ。

「動きは止めたぜ! よーし、今だフリック!!」


「 雷撃球!!! 」


フリックの振り下ろした手と同時に、厚く垂れ込めた上空の雲からいくすじもの雷が落ちて、大蛇の周りを取り囲む。 それはまるで雷の檻の様にも見える……。

そして、どこにも逃げられなくなった獲物に容赦無く最後の鉄槌を喰らわせたのだった!!




ドオオ――――――――ンンッッ!!!!



眩い光りと大音響と共に、辺り一帯地響きが起きる。

しばらくしてからがそっと目を開けると、目の前には大きな黒焦げの塊りになった大蛇が横たわっていた。



『す……凄ぉ―――いッ!!! 今のってアレよね! 魔法よねッ!!!』

初めて魔法とやらを見たは、かなり興奮状態(MAX!)になってしまっていた。
自分の世界では“ 奇跡 ”の類いに入る出来事なので、こうなるのも仕方の無い事なのだが……。






大蛇がやっと動かなくなったのを確認してから、やっと一息付く二人。

「…………ふぅ。 やっと、くたばりやがったか……」

「一時はどうなるかと思ったが……。 まぁ、何とか助かったな」


「フン! これ位倒さずして、何が剣士じゃ!
 特に貴様! しばらくサボっておった分、腕が落ちたのではないのか?
 それとも、もうトシで体力が無いのか? フッ!」

星辰剣はビクトールの方を見て、いつもの様に憎まれ口を叩いている。

「何だとぉ!?
 これでも三十になったばかりで、これからが男盛りなんだよッ!てめぇの……ん?」



パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ!



いつもの様に言い合いが始まろうとした時、パチパチと拍手の音が聞こえて来た。

一同、音のする方に注目するとそこには、キラキラした瞳で赤くなりながら懸命に拍手しているの姿があった。

【 二人共、凄いです!最高です!カッコ良かったですーッ!!! 】










パチパチと拍手をいつまでも続けられ、何やら興奮している少女に少し戸惑うビクトール達。

「……………………えっと、何て言ってんだ?は??」



「…………………………………………」

答えに困る星辰剣の姿がそこにあったのだった。

前話 話数一覧 次話

*******後書き*********
前回、一週間で書き上げると言いながら、三週間もかかってしまいました…(汗)
ごめんなさい…。
遺跡でタラタラと三話分も使ってしまい、自分でもしつこかったかな?と感じております。

【希望の紋章】
……これについては、これから少しづつ明らかになっていく予定です。
今回出て来ましたが、設定自体アダルト(?)なのでちょっとした性的表現が増える事でしょう!(きっと!)

裏行きにならない様、気をつけねば……(汗)

>20040915

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