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第二章:夢と現実Ⅰ(第2話)

服を着替えたビクトール達は今日はこの遺跡で休む事にした。



そして取り合えず、この荷物の持ち主である先程の不思議な少女を捜す事にする。

なぜ、あの後すぐにでも少女を追い駆けなかったのかと言うと、この遺跡の周りは一面の砂漠に囲まれていて、ここからは出られないと判断したからだ。

そんなに広くないこの場所なら捜せばすぐにでも見つかるだろう。
それにあのパンツ一丁の格好では、驚いてさっきみたいに逃げてしまう……そう考えたからであった。

二人は砂漠に放りっぱなしにしていた自分達の荷物を回収して、遺跡の入り口を入った所で一箇所に置き、それぞれ手分けして少女を捜している。

遺跡の左方面から捜すフリック。鬱蒼と茂る木々の間をしばらく歩いてると、遠くで誰かを呼ぶ女の声が聞こえて来た。


「ん!あの声は……」


急いで声のする方へ足を運ぶと、そこには先程の少女が知らない言葉で誰かを懸命に呼んでいた。


【 お父さ――ん! お母さ――ん! お兄ちゃ――ん!! 】


少女は同じ言葉を何度も繰り返し叫んでいる。

その目には一杯の涙を溜めてとても心細そうに見えた……。


『……誰かを呼んでいるのか? まるで捨てられた子供の様だ……』


居たたまれなくなったフリックは、ポロポロと涙を流して立ち尽くしている少女に近寄り、怖がらせ無い様出来るだけ優しく話し掛けた。


「…………おい、大丈夫か? あんた……もしかして迷子なのか?」


【 !? 】



急に木々の間からさっきの青年が出て来たので、驚いてしまい逃げ様とする
だが、今度は素早くフリックに腕を捕まれてしまう。


「ちょっと待ってくれ!」


【 きゃあ! イヤッ!イヤァッ!! 】


すっかりパニックになってしまい、は必死になって手を振り解こうと暴れている。


「おい! 何もしないから大丈夫だって!!」


少女を落ち着かせ様となだめるフリック。しかし、言葉が分からない事もあって抵抗を止めないは勢い余って、思わず掴んでいる手に噛み付いたのだった。


「わっ!!!」


少女の意外な行動に驚いて、フリックは思わず手を離した。

そして、解放されたがそのままそこから逃げ様とした時、このままでは又逃げられると思ったフリックは咄嗟にある事を思い付き、いきなり大袈裟に叫んだのであった。

「うわあぁぁっッ!! 痛い!痛いッ!!」


【 え……? 】


途中まで逃げ出していただったが、その叫び声を聞いてハッ!と我に返り、恐る々る振り返るとさっきの青年が、噛み付かれた方の手を押さえてうずくまっていたのだ。


【 あ……! 】


いつまでも呻き声を上げながらうずくまっている青年を見て、はいくら混乱していたとは言え悪い事をしてしまったのだと気付き、慌てて戻って来た。

そしてしゃがみ込み、青年に謝りながら心配そうに覗き込む。


【 あ……、あのっ!だっ、大丈夫ですか!?
  ごめんなさい!私ったらつい………… 】


フリックに触れ様とした瞬間、ガバッ!と勢い良く起き上がりその手を掴まれてしまった。




「なーんてな!やっと、捕まえたぞ♪」


イタズラっぽくニッコリと笑うフリック。どうやら、彼の思った通りの展開になったらしい。
ビクトールと同じく、人を見る目に長けているフリックは、少女の性格を逆手に取った様だ。

何が起こったのかまだ良く分かっていないは、呆気に取られたままキョトンとしてフリックを見ていた。

そんなを見てフリックは、頭を撫でながら安心させ様と、出来るだけ優しい声で話し掛けた。



「自分で言うのも何だが……オレ達は悪いヤツらじゃ無いから安心しろよ、な?」


は何を話しているのか分からなかったが、自分を安心させようとしている事だけは何となく理解出来た様だ。

頷いた後、先程パニックになっていた自分がとても恥ずかしくなり、赤くなりながら謝っている。


【 ご……ごめんなさい!みっとも無い所見せちゃって……
 …………あのっ!手の方は大丈夫ですか!? 】


さっき、自分が噛み付いた所を擦りながら心配そうに話し掛ける。

少女に擦られている手を見て、先程の事を謝っているらしい事が分かったフリックは、少女が人を労わる事の出来る優しい人間だと分かり、それに好感を覚え、自然と笑みがこぼれた。


「何だ? さっきの事、心配してくれてるのか?
 あれは芝居だよ、分かるか? し・ば・い」


【 ?? 】


首を傾げている少女。

ま、仕方無いか……と、少し苦笑しながら肩を竦めるフリックであった。


「ふぅ……。まぁ、手袋が厚いから全然痛くなかったんだけどな」


まだ、すまなさそうにしている少女を安心させ様と、手袋を外し、平気そうな所を見せるとやっと分かってくれたのか、嬉しそうに笑う。

言葉の違う少女と初めて意思が通じる事が出来たので、何だか嬉しくなって同じ様に優しく笑いながら頭を撫でた。


「ん…………?」


―――と、その時、素手で少女の頭を触って初めて濡れたままだったと言うことに気が付く。


「あ!そうか……す、すまん。早く帰ってその服乾かさなきゃな!」


慌てフリックは、手招きをしてビクトールとの待ち合わせの場所を指差した。
付いて来いと言うのが分かったは、先を歩く青年の後を急いで付いて行くのだった。







前を歩いている青年を見ながらは考えていた。


【 ……何て、優しい人なんだろう。
  見ず知らずの私をここまで捜しに来てくれたなんて……。

  でもさっきからしゃべっている言葉は一体、何処の言葉なのかな?
  英語でも、フランス語でも無さそうだし、それに………… 】


そう言いながら青年の格好を上から下まで見てみると、服装が少し……と言うか、かなり変わっている事に今、初めて気が付いた。

そう! 彼はファンタジー映画や、ゲームに出て来そうな服を着ているのである!!

それにその腰には長剣が下げられている。


【 ………… 】


もし、ここが本当に日本なら彼は、銃刀法違反で即、警察に逮捕されてしまっているだろう……。

以前、兄が入っている大学の文芸サークルが参加した『コミケ』に連れて行ってもらった時にも、こんな格好をした人を見た事があるが…………。


『コスプレ……とかじゃ無いよね?だって、ここコミケって所じゃ無さそうだし……。
 この場所だって、映画に出て来そうな感じで、まるで夢見てるみたい……
 ……って、夢?』



【 …………ああ――――っ!!! 】


「うわっ!?」


急に後ろから大声を上げられたので、驚いて振り向くフリック。 そこには少女が目を丸くして口に手を当てたまま、固まっている姿があった。



【 ……そっか!これってもしかして夢なんだ!

  川の中の幻だって、あの橋の出来事だって全部夢で本当の私は今、ベットの中で眠ってるんだわ!!
  なぁんだ、そっか……私の夢なのか……。

  だったら!
  こんなリアルな夢、滅多に見れないからしっかり楽しまなくっちゃね♪ 】



ぐっ!とガッツポーズをしながら、キラキラとした目をして上を見上げている

――そんな様子を今まで黙って見ていたフリック。

いきなり目の前の少女が、自分の知らない言葉でしゃべりまくったかと思ったら、最後に何かを決意した様に空を見上げている……。


『一体、何だったんだ…………??』


理解に苦しむフリックの姿がそこにはあった……。

今、自分が体験していることは全て夢だと、信じ込んでいるは、小説を読んでいる様に状況に慣れるのが早かった。

しゃべる剣、星辰剣にも大して驚かないの態度に、大いに気に入った様子の星辰剣。

彼は今、気分良さそうにと話している。


「…………こりゃ、驚いたな。あの小うるさい野郎を手懐けるとは……」


ビクトールは腕組しながら感心しての方を見ている。


「最初出会った時の印象と違うから、正直、面食らうなぁ……。
 あんなに明るい娘だったとはな」


フリックの方も肩を竦め、前髪を掻き上げて少し困った様に笑っていた。

の性格は、明るく前向きな性格だった。

素直なので、落ち込むのも早いが、立ち直るのも人よりは早かった様だ。
それは、家族の者がそんな性格だったからであろう……。

楽しそうにしゃべっている達を見ながら何を思ったのか、ビクトールがフリックに小声で話し掛けた。




「…………それにしても、最近の子供は発育が良いよなぁ……」

そのセリフに飲んでいた水を吹き出すフリック。


「な、何言うんだいきなり! ……それに、何処見てんだ、お前はっ!?」

赤くなっているフリックの首をガシッ!と腕に抱え寄せ、の方に顔を向けさせるビクトール。


「だってよぉ……ほれ! あんな格好されりゃあ、こっちも目のやり場に困らねぇか?」


「うっ……」


二人の視線の先には着替え終わったがいる。

……今のの格好は、長めの白いTシャツに、膝上までの黒いスパッツ。
それにビーチサンダルと言うラフな服装であった。

それは、の持って来た荷物の中に入っていた着替えで、水に濡れていた物だったが、先に乾いたのでそれに着替えていたのだ。

しかし、先程ビクトールが言った様にその姿は、白い足が太腿まで丸出しになっていて、この世界の男性達には少し刺激的に映っている様だ。


「…………」

フリックは少し顔を赤くして、遠慮がちにチラッと、横目でを観察した。

―――髪は少し明るめの茶色で、背中の上辺りまで伸ばしている。顔立ちは絶世の美女とまではいかないが、充分綺麗で愛らしい顔をしている。


『ん……? どこかで見た様な…………はて?』


ふと、を見ながら首を傾げているフリック。
フリックが余りにもジーッとの方を見ているので、からかってやろうと肘で突っつく。


「おい!何見惚れてんだよフリック?」


「みっ、見惚れてる訳じゃないんだが……、何処かで見た事がある娘だなぁと思ってな」

フリックにそう言われてビクトールの方も、まじまじとを見詰めた。


「…………?
 本当だな、何か良く知ってるヤツに似てる……気がする様な……??」


しばらく、首を傾げている二人であった。



―――その後、星辰剣を通訳に焚き火を囲みながら話し合う三人。
まず、星辰剣から二人の説明を受ける

【 へぇ~っ、
  すると青いバンダナの人がフリックさんで、
  大きくって熊みたいな人がビクトールさんって言うんですね? 】


【 そうじゃ、熊……とは良い表現だ!
  今まで会ったヤツらにもそう言われておったが、お主にもやはり、そう見える様だな 】

ビクトールの方を横目で見て、笑う星辰剣。


「 ?? 」




【 あのっ、二人は旅の剣士さんなんですか?
  その……大きな剣とか持ってますけど? 】


【 そうじゃ、
  一年前はここから南に下った所の赤月……いや、今はトラン共和国になっとるか?
  ……その国での解放戦争に参加しておったんじゃ。
  それが終わったんで、これから北に向かう途中なんじゃよ 】


【 へぇ~、すご~い!本物の剣士さんだったんですね?すご――い! 】

星辰剣の話しを聞いて、感動した目で二人を見詰めるは胸の前で両手を握り締めている。


「「 ?? 」」




「おい!二人で話してばっかりいねぇで、こっちにも通訳してくれよ!」

自分達の事を話していると分かったビクトールは、面白く無さそうに口を尖らせている。



【 ……この熊が、お主の事を聞いとるぞ? 】

【 え?……あ! そうでしたね!ごめんなさい…… 】



それを聞いて慌てて自己紹介をしようと、内容を考える

『えっと、……何て言えばいいかな?
 この世界とは全然違うし、そのまま説明しても分かってくれるかなぁ?
 …………でも夢だし、ま!いいか!』



そう一人で納得し、コホン!と咳払いした後、少し顔を赤くしながら改めて自己紹介する事にした

【 そっ、それじゃあ自己紹介しますね?
  えっと、私の名前は って言います!
  日本出身で、静岡私立の女子高の只今、三年生です! 】



「…………」



恥ずかしそうにそう紹介するの言葉を聞いて口を開けたまま、黙っている星辰剣。

いつまでたってもしゃべる気配を見せない、そんな星辰剣を見てイライラするビクトールはもどかしそうに突っ込みを入れた。


「おい! あの娘、何て言ったんだよ!?」


「い……いや、それが…………」


かなり戸惑いながら、ゴニョゴニョと言葉を濁している。
名前は理解出来たのだが、後半は何を言ってるのか正直、よく分からないのだ。

言葉が分かると豪語しておきながら、今更分からないとはプライドに掛けても言えないので困っている。そんな時…………


「そんなに難しい事言ってるのか? それじゃあ……名前とかは分かるか?」

それを聞いて星辰剣は、フリックからの思わぬ助け船に飛び付いた。


「な、名前か? おお!それなら だそうじゃ!」 



……?」


…………?」


ハッ!として二人共顔を見合わせ、お互いを指差した。


「「 !!! 」」


【 ????? 】


自分のファミリーネーム(苗字)をいきなり大声で叫ばれ、思わず驚いてしまう
そんなに詰め寄り、嬉しそうに二人共、少女の両肩をバンバンと叩いている。


「お……お前、もしかしてなのか!?」

「いやぁ、どっかで見た顔だと思ったんだよなぁ!そっかぁ、だったのか!!」



目の前の男達が興奮しながら口々に話し掛けてくれるのだが、言葉の分からないにはさっぱり理解出来ない。もしかして怒らせてしまったのかと戸惑っている。

【 あの、ど、どうしたんですか? 私……何か変な事言いましたか?? 】


ビクトール達のやり取りを聞いて目を丸くする星辰剣はその間違いを訂正しようと慌てて大声を張り上げた。


「何言っとるか! その娘は『トランの天使』では無いぞ!!!」




星辰剣の大声にもビクトール達も驚いて振り向く。

「何言ってんだよ、この娘の名前、って言うんだろ?
 それにこれだけ似てる娘なんか他にはいないぜ!?」

「……良く似ておるが、よう思い出して見ろ!
 は青い銀の髪に碧の瞳だったじゃろうが!」 


「でも、それは精霊だったからで、本当の姿はこの娘なんじゃ……?」




フリックの言葉に星辰剣は深い溜息を付く。そして少し躊躇った後、説明する事にした。

「…………皆には黙っていたのだが、
 あの娘は真の紋章の一つ、『希望の紋章』を宿していたのじゃ」


「「 真の紋章!? 」」


「残念だがその娘からは真の紋章の気は感じられん。
 お前らの知っているでは無い。」


星辰剣の言葉にガックリ肩を落とす二人。
真の紋章の化身である星辰剣がそう言うのだから、それは確かなのであろう……。

一年程前にいたトラン解放軍の時の事を思い出し、遠い目をするフリック。



「…………は『希望の紋章』を宿していた精霊……。
 希望か……確かにはオレ達、解放軍を導いてくれた。
 オデッサの事で打ち拉がれていたオレに希望を与えてくれたのは彼女だ……」


「ネクロードを倒す時、星辰剣と引き合わせてくれたよなぁ。
 希望か……
 オレ達があの崩れ落ちる城から脱出できたのものお陰だったもんなぁ……」





切なそうに何かを呟いている二人を見て、心配になるは恐る々る声を掛けた。

【 あの……、大丈夫ですか? 】


自分の顔を心配そうに下から見上げているのに気付き、『トランの天使』にそっくりな目の前の少女の頭をくしゃっと、撫でるフリック。

「あ……、悪いな。心配させたか?
 ……ちょっとあんたに似ている娘を思い出しただけだよ……ありがと」

フリックは少女を安心させる様に優しく微笑んだ。

それを見て安心したのかホッとした表情になる。と、その途端!
グ~~~ッとお腹の音が鳴ってしまい、真っ赤になって慌ててお腹を押さえた。


【 きゃっ! 私ったら! 】

少女のそのかわいらしい仕草に思わずプッ!と笑い、自分達も食事がまだだった事を思い出した。


「おっと!忘れてたぜ、それじゃあそろそろメシにするか♪」



ゴソゴソと持って来ていた荷物の中から、携帯用の保存食を取り出すビクトール。

「ろくなモンねェけど、腹減ったままよりかぁマシだろ?」


そう言ってビクトールから手渡されたのは、この世界ではよく見られる旅行用の日保ちのする干し肉や干し芋、それに硬い黒パンであった。

【 あ、ありがと…… 】




どれも硬い物ばかりなので、三人共モグモグと黙って食べている。
そんな時、ビクトールが干し肉を目の前でヒラヒラさせながら、うんざりとした顔でぼやいた。


「あーあ。こんなモンばっか食ってたら、いい加減飽きちまうぜ!
 あ゛ー 肉!肉食いてーッ!!」

「また、ぼやきが始まったか……。
 文句言うな!こんな砂漠に獲物なんかいないって分かってるんだろ?
 まぁ、モンスターでも食いたいって言うなら別に止めやしないぜ」


「チッ、分かってるよ!…………ったく、いちいちうるせぇ野郎だな!」



目の前の男達がぎゃあぎゃあ言い合いをし始めたのを見ては、自分の食べている物を見詰めながら、心配そうに星辰剣に尋ねた。

【 あ、あの……、
  もしかして私の分だけ食べ物が少なくなったから、その……怒ってるんですか? 】


【 いや……、これはいつもの事だから気にするで無い。
  ここしばらく同じメシだからぼやいているだけなんじゃよ 】


ヤレヤレといった表情の星辰剣。

その言葉に少しホッとしたものの、この食事の味気無さはにもビクトールのぼやく気持ちがなんとなく理解出来る。

『……夢の中なのにちゃんと味があるのね?不思議だわ……。
 私の家から何か持って来れれば少しは二人に喜んで貰えるのに……
 ……あ!そうだった!!』


何かを思い出したらしく、ポン!と手を打ち早速自分の荷物を探る

【 あったぁ! 】


カバンの中から何かを見つけ、両手に何やら抱えてニコニコしながらビクトール達の所へとやって来る。

「ん? 何持って来たんだ??」



の持って来た物は、三個のカップラーメンであった。




「「 ??? 」」

目の前に並べられた薄い透明の紙(?)で包まれた今まで見た事も無い物に驚く二人。

その二人の見ている前で透明な包みを破り、中に入っていた物の紙を捲り、そのカサカサと軽い音が鳴る物の中へ、火に掛けていたお湯を注ぎ込んだ。

何をしているのか全く分からない二人は、のする事をさっきから見守っている。




「な……何やってんだろ?」


「……良く分かんねェけど、何か良い匂いするよなぁ」

何をしているのか興味深々で見ている二人をよそに、は自分の腰に着けていたポシェットの中から腕時計を出して時間を計っている。

その時計は父から貰ったアウトドア用の防水時計だったので、あの水の中でも無事だった様である。


「何だありゃ? 変わった腕輪だよな、何でずっと見てるんだ?」


「さぁな……?」











【 はい! もう良いですよ♪ 】


そうこうしている内に三分経ったので、プラッチックのフォークと出来上がったカップラーメンを二人に渡す。
…………だが、見た事も無い物をいきなり渡されて、ビクトール達は戸惑っている。

カップラーメンを見詰めたまま一向に口にしない二人を見て、食べても大丈夫だと安心させる為に、は先に食べて見せた。

【 大丈夫ですよ? これ、美味しいですから♪ 】




美味しそうに食べているのを見て、堪らなくなった二人。 少し警戒しながら恐る々る口にしてみると…………。


「「 う……美味いッ!!!! 」」


初めて食べる味わった事の無いその食べ物は、以外にも絶品の味であった様だ。

二人共驚きの声を上げた後、がっつきながら美味い美味いと連呼して食べていた。
その様子を嬉しそうに見ている


【 良かったぁ、喜んでくれて♪ 】


ほんの数分の内に、スープまで残さず食べ切った二人。

二人が満足そうに食べ終わったのを見て、は大きな体の二人にはまだ足りないだろうと思い、ある物をカバンから持って来て、それぞれに手渡した。

少女のくれた物は、これまた見た事も無いツヤツヤした小さい袋の中から取り出した、茶色い小さな塊であった。

少女に薦められるまま、これも恐る々る口に入れてみた。 その途端、口内に広がるその味に目を見開く。

「「 うっッ、美味いッ!!!! 」」



二人の食べた物、それはキャラメルであった。
長旅で疲れていたせいもあり、甘さに飢えていた彼らにとって、絶品の味だった様だ。


―――その後も、カバンに入っていた缶詰を次々と振る舞い、その度二人を感動させていた
食べ終わった後もその余韻に浸っているビクトール達。





「ふ――っ、食った、食った♪ 本っ当に美味かったぜ!!」

「本当だな! こんなに美味い物、食べたのは初めてだ……」


二人がとても満足そうにしているので、も嬉しそうにそれを眺めていた。
夢の中とは言え、自分の持って来た物が役に立ったので嬉しかったのだ。 

の荷物は一度は水に浸かったものの、アウトドア用の缶詰やビニール袋に入った携帯食ばかりだったので大丈夫だったらしい。

「一体何処の国の食い物なんだ?
 こんな美味いモンがある国だったら、一度行ってみたいもんだな♪」


自分のお腹を擦りながら、上機嫌にに話し掛けるビクトール。
だが、当然には理解出来ていない。


【 ??? 】


星辰剣に通訳され、やっと意味が分かったは説明しようとして少し口篭もってしまった。

は夢の中でまさか、自分の国や世界について説明しなくてはならなくなるとは思ってもみなかったからだ。


『…………ま! 夢の中だし、変に思われても平気よね?』

あくまでも夢だと思い込んでいるは、相手にどう思われるか関係無しに、そのまま答える事に決めた様だ。



【 えっと、その……さっきも言ったと思うんですけど、
 一応日本って言う名前の国なんですが、こことは世界が違うから普通では行けないと思いますよ? 】

少し遠慮がちに言うの言葉を聞いて驚く星辰剣。思わず聞き返してしまう。



【 何ィっ!? 世界が違う……と言う事は異世界…………。
 お主、この世界の人間では無いと言う事か!? 】

【 はい、そうなりますね。
  その……私の世界じゃ剣士さんも星辰剣さんみたいな方もいませんし…… 】


困った様に頭に手を置いて申し訳無さそうにしている


「う~~~む」


『最初会った時から異質な存在だとは感じていたのだが、やはり異世界の者であったか……。

 しかし一体、誰に召喚されたのじゃろ……?
 ハッ!まさか『門の紋章』を持つウインディか!?
 一応あやつは行方不明とされてはいるが……』




唸りながら考え事をして、一向に答えない星辰剣を見て痺れを切らせたビクトールが、コンコンと星辰剣の鞘を小突いて尋ねる。

「何、考え事してんだよ! ……で、何処の国から来たって?」


「ん? おぉ! に……『日本』と言う国だそうじゃ」

「にっぽん?? う――ん、聞いた事ねぇなぁ……」


聞き慣れない国の名を聞いて首を捻る二人。


「この大陸のどの辺にある国なんだ? 南の群島諸国の辺りなのか?」

フリックの問いに答え様として、思わず口篭もる星辰剣。




『……う――む。こやつらにそのまま話してもきっと、理解出来んじゃろうな……。
 取り合えず今は適当に説明するかのぉ、
 そのうち時期が来たら又、教えてやれば良いじゃろ』

そう考えてから溜息を付いた後、少しもったい振った様に口を開いた。



「どうやらこの娘は『瞬きの紋章』の力で別の大陸から飛ばされて来たそうじゃ」


「「 瞬きの紋章!? 」」


その名を聞いて二人はある人物の事を思い出した。
それは、一年前の解放軍にいたビッキーと言う『瞬きの紋章』を宿していた不思議な少女であった。

彼女はその紋章の力で、人や物を一瞬にして遠く離れた所に送る事の出来るテレポートの魔法を使っていたのだ。

彼女の魔法でとんでもない所に何回も飛ばされてしまった事のあるフリックは、少し遠い目をしながら懐かしそうにしている。

その口元には自嘲の笑みが浮かんでいるように見えるのだが……?


「……そうか。あのビッキーも確か、別の大陸から来たって言ってたし、考えられるな」


「その大陸にゃ、ここじゃ考えられねぇ物が有るんだろうなぁ……。
 一度でいいから行ってみてぇー!」

羨ましそうにを見ているビクトール。



「 ??? 」

は三人のやり取りを、不思議そうに首を傾げて見ていた。





―――そうして、不思議な出会いをしたその運命の一日は、夜と共に更けていくのであった……。

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*******後書き*********
今回、かなりオリジナル要素が含まれているのでご了承下さい。

オリジナル要素(その1)
*フリック達が活躍したトラン解放戦争時に、とあると言う精霊が達、解放軍を手助けしていた。

オリジナル要素(その2)
*『希望の紋章』と言う真の紋章がある。

………………と、今の所これくらいです。
ゲームの本編が始まるまでのお話しにはかなり、オリジナルが含まれてしまうと思います。
それでも良いという心の広ーい方のみ、お読み下さーい♪

>20040825

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