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第一章:出遭い(第1話)

―――二人の男は一面砂に囲まれた場所……砂漠の中を彷徨っていた。


「おっかしーなー? 確かにこっちだと思ったんだがなぁ……」


体格の良い大男は、砂とホコリでボサボサになった自分の頭を掻きバツの悪そうな顔をして、辺りをキョロキョロと見回した。


「……ビクトール、お前まさか……また迷ったんじゃないだろうなぁ?」

青いバンダナに青いマントを着たもう一人の男はそう言うと、背中に背負っていた荷物をドサリと地面に落とし、ビクトールと呼ばれた男を睨んだ。



二人の男の名は『風来坊のビクトール』と『青雷のフリック』。
彼らは一年前のトラン解放戦争に参加した解放軍の戦士であった。

戦争が終わった後、二人はトラン北方地域の紛争を避けビクトールの故郷近くの都市、サウスウィンドゥと呼ばれている地を目指した。
只今その地へ向かうべく、何度目かの砂漠横断をしている最中である。


なぜ何度も過酷な砂漠横断をしているのかと言うと、その原因は今、あごの無精ひげを摩りながら首を捻っている大男にあった様だ。


一度はサウスウィンドゥに着いた二人だったが、ビクトールが忘れ物をしてしまったらしく
「あ!! 悪ぃ……大事な用事忘れちまったぜ、もう一度トランへ帰ろうぜフリック?」
と、渋るフリックを半ば強引に引き連れてトランへと戻って行った。

結局この旅で三度目の砂漠縦断になった様である。



一度目は大丈夫だと言いきるビクトールの言葉を信じた為、危うく死にかけてしまったフリック。

一度目の教訓から、二度目は充分な準備をしていたので事無きを得ている。


―――だが、今回の三度目。
流石にもう大丈夫だろうと準備をビクトールに任せてしまったのが運の尽き。
またもや命の危機に直面している……つまり、水が無いのだ!

「ま、何とかなるだろ!
 そのうちオアシスでも見つかるから大丈夫だって、はははは!」

手をヒラヒラさせながら笑って誤魔化しているビクトール。
もう水が底をついて二日目に入るというのに、この危機的状況を分かっていないのか、彼は呑気としか取れない様な一言を発した。

いつもならこの後、フリックの厳しい突っ込みで終わるのだが、この一年間のビクトールへの鬱憤と丸一日以上、水を口にしていないせいか、彼の精神は極限状態にまでなっていたのだ。

なのでビクトールの余計なその一言で、滅多な事ではキレないフリックの堪忍袋の尾はあっさりと切れてしまったのだった。



「……いつも……いつも、いつも! お前はそうだ!!!!」

顔を下に向けている為、フリックの表情は見えない。
だが、肩を震わせ拳を握り締めているのを見る限りでは、怒り心頭なのは言うまでもない様だ。


「大丈夫だって言って、今まで本当に大丈夫だった試しが無いんだよッ!!!」

すっかり頭に血が昇っているのか、自分の体に宿してある雷鳴の紋章が発動しているのにも気づかないようである。


ゴロゴロと鳴り響く空は次第に雲行きが怪しくなり、ゆっくりと剣を抜いたフリックの目は……―――殺意に満ちていた。


「!!!!」

それを見て本能的にヤバイと感じたビクトールは、何とか目の前の男をなだめ様と出来るだけ下手に出る事にした。


「お……おい、フリック! 落ち着け!!
 紋章なんか使って無駄に体力を無くすのは……」

「うるせぇ―――ッッ!!!!」

ドォォ――――ン!!!


今までビクトールが立っていた場所に雷が落ちた。
もし、野生の勘が働かなければ今頃熊の黒焦げ死体が出来あがっていた事であろう……。


「わ―――っっ!!!」

その後、立て続けに二、三回雷を落とされ、必死で避ける。




「おっ、おい! お前からもヤツに何か言ってくれよ!!
 このままじゃマジで殺されちまうぜ!」

ビクトールはいきなり自分の腰に下げていた剣に向かってしゃべり掛けた。

なぜ物に話し掛けたりするのか? ……と、疑問に思う者もいるかと思うが、ビクトールの剣はその辺の只の剣では無く、星辰剣と呼ばれる『夜の紋章』……すなわち真の紋章の化身なのである。

その『夜の紋章』の化身だけあって意思を持ち、しっかりとしゃべる事も出来るのだ。
持ち主である熊…もとい! ビクトールの情け無い大声に、今まで黙っていた星辰剣は呆れながら答えた。


「フン! ヤツが怒るのも当たり前だ、たまにはお灸でも据えてもらえ!」

「う~~っ! この人でなしめ~~!!!」

そう言っている間にも、今度は愛剣オデッサで容赦無く斬り付けて来るフリック。
その攻撃を何とかかわし、必死になってビクトールは逃げ回った。


「ひぃ―――っ! こりゃたまらんッ!!」

「待ちやがれ――っ! この野郎―――っ!!!」




しばらく逃げ回っていたが、なにせここは砂漠のど真ん中。
隠れる所も無く、砂に足を取られて転倒したビクトールは、とうとう追い詰められてしまったのだった。


「た……タンマ、タンマ!!
 オレが悪かった! この通りだ! だからやめろよ、な? な?」

手を合わせて拝む様に謝るビクトール。
いつもの飄々とした態度は消え失せ、何とも哀れに見える……。

だが、そんなビクトールの姿を見てもまだ怒りが収まらないのか、フリックは目を吊り上げて剣を突き付けた。
日頃彼の押さえ役をやらされている分、鬱憤が溜まりに溜まっていたのだろう、今日のフリックの言葉は辛辣であった……。


「オレはお前みたいに腹に溜まりまくっている脂肪は使えないんだから、
 少しは人の事を考えろよ! この……うすらデブッッ!!!」

「!!!!!」


フリックのその一言に固まるビクトール。
顔付きが見る見る変わって、今まで下手に出ていた態度が一気に豹変したのが分かった。
……どうやら痛い所を突かれたらしい。(笑)


「オレはデブじゃねぇよ! これは筋肉だ!!」

「んじゃあ筋肉デブだッ!!!」

「……んだとぉ!?」

二人共、お互いの顔を近づけながら睨み合っている。それはまるで子供のケンカの様であった。


「……貴様ら、一体何をしとるんじゃ? 大人気無いやつらじゃのぉ……」

星辰剣はガンの飛ばし合いをしている二人を見て呆れながら口を挟んだ。
……しかし、頭に血の昇った大人気無い二人には、どんな言葉も邪魔者以外の何者でも無かった。


「「 お前は黙ってろッ! このクソジジィッ!!! 」」

―――そのささいな(?)一言を発した次の瞬間、星辰剣の真の紋章……『夜の紋章』が煌き、辺り一帯が闇に包まれてしまったのだった……。






しばらくしてその『夜の紋章』の威力が収まると、後に残ったのは半ば砂に埋もれて死にかけてる二人の姿がそこにあった。


「も……もうダメだ……今度こそ本当に死に……そう……だ……」

「くっ……ちったぁ手加減しろよ……。オ……オレもヤバイ……かも」

それを見て鼻で笑う星辰剣は、空中に浮きながら二人を見下ろしている。



「フン! これくらいで何弱音を吐いておる!
 ……そら見ろ、向こうに貴様らの探していたオアシスが見えるぞ」

「「 何だってぇッ!? 」」

勢い良く起き上がった二人が見た先には、薄っらと緑の木々が見えていた。



「やっほ――っ! オアシスだ!!」

「水だ! 水だ――っ!!!」


どこにそんな余力が残されていたのか、今まで死にかけていたとは思えない程、元気になった二人は、そのオアシスまで一気に駆け出した。


「……何じゃ、まだ体力があるではないか……つまらん!」

やはり人間とは不可解な生き物だと、星辰剣は呆れてため息を尽いた後、空中を漂いながら彼らの後を追い駆けるのだった。



―――しかし、そこは以前何回か立ち寄ったオアシスではなかった。

砂以外何も無い砂漠の真ん中に、場違いな程緑に覆われているその場所には何と、遺跡らしき建造物があったのだ。


「な……何だここは? えらく古めかしい建てモンだなぁ……」

ビクトールの言う通り、石の柱には蔦や蔓草が幾重にも巻き付いている。


「……これだけ大きな遺跡なのに、何で今まで気が付かなかったんだ?
 三回も通ってりゃ普通、分かるはずだけどなぁ?」

フリックも不思議そうに見回した。


「……もしや、結界が張られていたのかもしれん。
 人目に触れられん様にな……」

星辰剣の言葉に少し納得いかないのか、ビクトールは眉を寄せた。


「それじゃあ何で急に現れたんだよ?」

「さぁ? ワシにもそれは分からん。
 只……何やらこの遺跡から妙な気が漂っておるのだけは確かじゃ。
 気を付けろよ貴様ら?」


「あ、ああ……」





通路を進んで行くと、どこかからか水の匂いと、その流れる音が聞こえて来た。
それを敏感に察知した二人は、急いでその音のする方へと駆け出した。

―――すると、そこには石造りの広い見事な池が目の前に広がっていた。



「「 水だぁッ!!!! 」」


それを見た途端、二人は目の色を変えた。
丸一日水を口にしていない上、この灼熱の砂漠の上を歩いていたのだから仕方が無い。
喜びの声を上げながら、身に着けているマントや防具、服等を次々と脱ぎ捨て、下着一枚の姿で水に飛び込んだ。


「……気を付けろと言っておるのに、人の話しを聞かんヤツらじゃ……」

つい先程注意したばかりだと言うのに、すっかり忘れている二人を見て、星辰剣は呆れた様に深い溜を吐いた。





水に潜り、はしゃぎながら思う存分水を味わう二人。

乾きの為、体に浮き出た塩っ気が抜けて隅々まで潤うのを感じる。
水の有難さをこれ程感じたのは恐らく初めてかもしれない……。


「ぷは――――っ! 生き返ったーっ!!!」

勢い良く水の中から出てきたビクトールは水の滴る髪の毛を掻き上げ、子供の様にはしゃいでいる。

人工のこの池は石造りでかなり大きく、水は透明で底がそのまま見える程綺麗である。
深さはせいぜい腰の辺りまでで、そんなに深くは無い。

そして、池の中央にはどんな仕掛けになっているのか分からないが、変わった形の噴水が勢い良く水を雨の様に降らせて、反射した光がキラキラして幻想的に演出していた。



「……砂漠のど真ん中で、こんなにたっぷり水があるなんて……
 まるで天国みたいだぜ」

「本当だな……」

二人は水面に浮きながら、幸せそうな顔をして和んでいる。


「何を呑気な……」

ピシィッ……!!!!!!



星辰剣が呆れ声で一言何か言おうとした瞬間、急に辺りの空間に亀裂が入った様な音が鳴り響いた。

「なっ、何だ!?」

「へっ……?」


その音が鳴り響いたと同時に、フリックの足元がボンヤリと光り出し、小さな泡が出始める。
何事かとフリックが水底を覗き込んだその時、さらに光りが強くなり、その光りの中心から何かが飛び出した。


「「 なッッ!? 」」

驚いた二人は素早くそこから飛び退き、瞬時に身構えた。
その顔はいつの間にか戦士の表情に戻っている。


【 ぷはあッッ!!!!! 】

水中から勢い良く飛び出して来た何かは、出現してすぐに苦しそうに咳き込んでいた。



―――最初、モンスターなのかと身構えていた二人。
だが、よくよく見ると人間で……それも小柄な少女の様だった。


「なっ!? 何でこんな所に…どうやって??」

「さっきまで何も無かったハズだぞ! なのに……」

二人がそう思ったのも仕方無い事で、この池の深さは先程も言った通りそんなに深く無いのだ。
それに底が見渡せる程透明度が高い。

その何処にも少女が隠れる場所など無かったハズなのに……
もしかしたら人の姿に化けた魔物なのかもしれないと、しばらく遠巻きに少女の出方を伺っていた。



……だが、いつまで経ってもこちらに攻撃を仕掛けて来る様子は無く、余りにも苦しそうに咳き込んでいる少女を見て、フリックは少々心配になってきた。

もしかしたら、本当に只の人間なのかもしれない……。
正体の分からない相手だと分かってはいても、目の前で苦しんでいる者を放っておく訳にはいかず思わずフリックは近づいて、その背中を撫でた。

「大丈夫……か?」



フリックの軽率な行動に驚くビクトールは呆気に取られていた。

「お、おい! フリック、待てよ……」

「放っておけるかよ! こんなに苦しそうにしているのに……」


呼吸が少し楽になったのか、やっと少女は周りの状況に気付き、自分の背中を撫でてくれている親切な相手に礼を言った。


【 ありが……とう…… 】


―――しかし、言葉は通じなかった。

一言何か言ったらしいのだが、それはフリック達の聞いた事の無い言語だった。

「えっ? ……今、何て言ったんだ??」


少女の方も息を整えるのに下を向いていたが、今の聞き慣れない言葉が耳に入り、フリックの方を見上げた。





少女=は、目の前の青年を見て驚いた。

青い瞳で外国の俳優さんの様な整端な顔立ち、前髪だけ明るくメッシュを入れている髪。
どれを見ても日本人でない事が一目で分かる。


【 あ……あれ?? どうしてこんな所に外人の方が…… 】

フリックのその整った容姿に思わず見惚れてしまうは、その顔を見詰めながら少し戸惑っている。
……と、そこへ少女が危険で無いと分かり、安心したビクトールがジャブジャブ音を立てながら興味深そうに近寄って来た。


「お~い、何言ってんだその娘は?」

「う~ん、オレにも良く分からん……」

肩をすくめるフリック。

いきなり近寄って来た男を見て、他にも人がいた事に気付いたは、驚いた顔をして男を見詰めた。
こちらの男はK-1に出場しているプロレスラーの様な体格で、顔立ちを見てもやはり日本人には到底見えない。
……と、その時、とある事に気付く

その瞬間目を見開いたまま固まってしまった。


【 !!!!!! 】


そう……目の前にいる男達は二人共下着(トランクス?)一枚の格好だったのだ。
中学・高校共、私立の女子校だった為、父親と兄以外免疫が無いにとっては刺激の強すぎる姿だった。
それは、水に濡れた下着に透けたあるモノを見てしまった為でもある。(笑)



固まったまま、見る見る顔が赤くなってくる少女を見て、更に心配するフリック。

「どっ、とうした!? 急に赤くなって……熱でも出たのか??」


……と、の額に手を当てた瞬間、更に真っ赤な顔をして悲鳴を上げた。



【 キャアアアア――――ッッ!!!!!! 】

その場にいた二人は、いきなり少女が大声を上げたので驚いてしまい、思わず後ろへ飛び退いていた。


「うわっ!!」

「何だ? 何だ?」

二人共、訳が分からず呆然としている。
はその池から一目散に逃げ出してしまった。

「おっ、おい! 待てよ、一体どうしたんだ!?」

逃げた少女を追い駆け様と、フリックが慌てて池から上がろうとした時、呆れた声で星辰剣に止められた。



「……貴様ら、年頃の娘の前でそんな格好を見せるとは……
 恥を知れ! 恥を!!」


「恥って……うわぁっ! しまったッ!!」

最初、何の事か分からなかったフリックだったが、ふと、自分の格好を見てやっとそれに気が付いた様だ。
それとは対照的にビクトールは平然としている。


「はははは!
 これくらいで驚くなんて、今時珍しくシャイな娘だなぁ♪
 でも、何しゃべってんのかさっぱり分かんなかったぜ。
 聞いた事無い言葉だしよ……一体何者なんだ?」

「人間……って事は分かるんだが、後はさっぱりだな……」

二人共首をひねって考えるが、一向に答えが出ないので諦めた。
取り合えずさっさと着替えてあの少女を追い駆ける事に決めた様だ。

池から上がって、自分達の服を拾っている最中に星辰剣がボソリと呟いた。


「……あの娘、貴様らの事を外国人……そう呼んでおったぞ?」

「な、何ィッ!? 何でそんな事が、お前さんに分かるんだよ!!」

ビクトールは近くに浮いていた星辰剣をうさん臭そうに見ながら、その口をへの字に曲げた。

馬鹿にした様な熊男の態度にムッとした星辰剣は、クルッと一回転した後、鞘に収めていた自分の体を思いっきりその頭に打ち付けた。


「痛てッ!!!」


「……これでも『夜の紋章』の化身! これくらい分からいでか!!!」

これがもし人間の姿なら、ビクトールの前で仁王立ちしながら踏ん反り返っているのだろう。


「へーへー、悪かったよ。
 ……ったく、別に殴らなくってもいいじゃねえか!」

ビクトールはブツブツ文句を言いながら、頭を擦っている。
だが、口煩いだけのじーさんだと思っていたが、さすがは真の紋章の化身だけある。
やはり並みの者には無い能力を持っている……と、少しだけ関心しているビクトールだった。


「外国人? ……って事は、あの娘はこの辺の人間じゃ無いのか?」

そんな時、フリックの足に何かが触れた。ふと足元を見ると何かが沈んでいる事に気が付く。
それは変わった形のカバンの様で、引き上げると水を含んでいる為、かなり重かった。

「何だこれは? ……もしかしてあの娘の荷物か??」






―――その頃は顔を赤くし、頬を押さえながら必死に走っていた。


【 やだやだーっ! 変なモノ見ちゃった!!

 何? あの人達!? 何で水着も着ないで泳いでるの!?
 やっぱり外人さんだから恥ずかしくないのかな……
 あんな格好で川で泳いでたら、みんなに見られちゃうのに……
 ……って川??? 】


自分の言った言葉でふと我に返ったは、走るのを止め辺りを見回した。

そこは予想していた川原では無く、石造りの神殿みたいな建物だった。
その石畳の外側には、鬱蒼とした木々が生い茂っている。


【 ……あれ? 私、確かキャンプ場近くの吊橋にいたのよ……ね?

 そこで白い人……が立ってて行き成り雷が落ちて、そのまま川に落ちた……のよね?

 だから流されたとしても川のはずなのに……
 ……何で池に出て来るのぉッ!? 】

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****後書き****
やっと、青い人とクマさん出てきましたー♪
まだヒロインとちょっとしか出会えてないけど次回から本格的に始まりますので、よろしくお願いしまーす!!
by 一条ケイ

>20040825

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