戦国BASARA ~戦国漫遊奇~
〇零【 休日は早く終わるもの 】
日曜日の夜。リビングのソファーに座り、クッションを抱え、自身のスマートフォンをいじっている少女がいた。
少女の名は 。
短い髪は明るめの赤茶髪で、目は暗い青色をしており、顔立ちも整っているが故に中性的な雰囲気を持っている。
細身の肉付きもあり、一見しただけでは分かり難いが、れっきとした『性別・女性』としてこの世に生を受けた、今年十四歳の中学二年生だ。
ガシャーン! と派手な効果音がテレビ内蔵のスピーカーから響き渡り、はスマートフォンからテレビ画面に視線を移した。
大きなリビングテレビの画面内では、閃光が収まり、二つの人影のうち一つが倒れたのが見えた。
「ふはははは!! 私こそが真の三國無双よ!!」
「いや、それゲーム違いますからね?」
既に夜も八時を超えたというのに、近所迷惑などなんのそので奇声を発した女性はかなり興奮しているのか、ゲームコントローラーを持ったままソファーから立ち上がった。
高らかに勝利の宣言をしている割には、その声はどう聞いても悪役めいている。
「ほらほら~、見てよ! 今回はこんなにヒット数稼げたのよ~!
うーん、流石は私!
これはいつか『あの名人』も越せるようになるんじゃね!?」
「名人て……ジャンルがまず違い――」
が女性に反論しようとしたとき、手に持っていたスマートフォンが小さく震えた。
視線を戻して、小さく操作したは「うげっ」と顔を引きつらせた。
「……あー、やっぱり無理みたいです」
「え、マジで?」
何が、とはも言わず、また女性も聞き返しはしなかった。
それは直前までその話を二人が交わしていたためであり、そして二人がその短い言葉だけでも通じるほど気心知れた仲であることもあった。
の握るスマートフォンでは、某・無料通信アプリが開かれていた。
少し前の時刻にから
【 ゲームの返却、叔母が延期を申し出ております 】
とメッセージが送られている。
そして先程返ってきた返信は――
【 無 理 ★ 】
その二文字プラスαであった。
画面を覗き込んだ女性――の父方の叔母も「あらら」と肩を竦めた。
「本当に無理っぽいみたいね。星まで付いてるし」
「いや、星は絶対に腹立たせるためでしょ!?
ってか実際に今! これを見た私がアイツを思い出して腹立っとる!!」
憎らし気に吐き捨てたは指を動かし、素早く文字を入力していく。
その最中に思い出されたのは、
の通っている所は一般的な市立中学校だ。
もちろん『勉強に必要のない物の所持があった場合、その場で没収とする』と校則にも堂々と――というか校内のあちこちに印字されて貼られている。
だのにゲームを持ち込んだ相手――の小学校来の友人(?)は朝の予鈴も間近な時に教室に飛び込むと、突然を校舎裏まで引っ張り込み、まるで告白かのような雰囲気を醸し出し始めたのだ。
『あのぉ~。前から私ぃ、先輩のことがぁ……』
『キモいので先生呼びます』
『はあ!? ちょっと!
学校一の美少女からも告白されるかもしんないのに君冷たくない!?』
『君付け止めてくれません美少女(笑)さん!?
あれか! この前のアレ見てやがったでしょテメェ!!』
アレ、とは何か。
――が新たに入った一年生の女子生徒に告白されたことである。
話が少し逸れてしまうのだが、の中学校の指定制服はブレザーであり、男女の違いはざっくりと言ってスカートかズボンか、だけである。
そんな中、は叔母の独断専行でスラックスという、女子生徒用のズボンを制服に選ばれてしまっていた。
選んだのも『なんか珍しいから』という、なんとも身勝手な理由で。
しかも『こうなったら、あんたの髪も合わせて切りましょうよ!』と、背中まであったの髪も今の短髪へと切ってしまった。
叔母のテンションに呆然と流されていたに代わり、娘の制服姿を楽しみにしていた両親が叔母を昏々と説教したのは言うまでもなかった。
目立つ容姿と中性的な雰囲気に加え、格好までもそうなってしまえば、いくら書類上で『女』と言われていようとも、周りのを見る目が本来の性別から離れてしまうのは必然であり――その告白を除いても、あと数回は同学年やら上級生から告白を受けた経験があるのだ。
もちろん、は同性愛者ではない。
なので嬉しいやら悲しいやら複雑な心境のまま、その時も含めすべての告白を『実は』と性別を教えることで断ってきたのだった。
だが、まさかそれを一番面倒な友人に知られていたとは……と、話を戻して。
『いいからとっととコレどっかに入れなさいよ!』
『ぎゃああ!! お、追いはぎがここにいるぅううう!!』
いつの間にか取っ組み合いへと発展していた二人。
友人は鞄から取り出したゲームを、無理やりの服の中へと隠そうとして。
そしては、その友人から逃げるように引っ張られるズボンやカッターシャツを抑えていた。
完全に『襲う女子生徒と襲われる男子生徒の図』である。
しかし悲しいかな普通教室のない離れの校舎裏であり、既に予鈴も鳴り始めていたため誰も通り過ぎることは無く、結局はカッターシャツの下――背中にゲームを入れられてしまったのだった。
プラスチックケースの冷たさに鳥肌を立てながら睨むに対し、友人はスカートを翻しながら、あざとくウインクを飛ばしてきた。
『あ。期限は二週間。延滞厳禁!
達成条件は返す時に感想も一緒に聞かせることナリ!!
で・な・きゃ……お前ん家に押しかけて下着を貰っちゃうZOI★』
そんな脅迫まがいな文言と共に。
――あの後、朝のホームルームに遅刻しかけたことも含めて思い出してしまったは盛大に顔を顰め、文字を打ち終わった。
【 くそったれ了解しました。
明日持って行きます地獄へ堕ちろ 】
そして送信した直後に電源をスリープに落とし、ソファーから立ち上がる。
気分を切り替えるために大きく背伸びをして、ようやくソファーに座りなおした叔母を見た。
「それじゃあ、私は電話してきますね」
「おっけー。後三人だから、朝には渡すわ」
イコール、このまま彼女は徹夜でゲーム漬けに走るのだろう。
はその事を言及することなく「おやすみなさい」と就寝の挨拶をして、自室のある二階へと上がっていった。
の住む家は叔母名義にはなっているが、元々はとその両親が住んでいた一軒家である。
二階建ての4LDKと、そこそこ大きい家。
一階にはリビングやダイニングや、元々客間だった叔母の部屋があり、二階にはの部屋と両親の寝室、そして父の書斎があった。
が生まれる前から父は貿易関係の仕事に付いており、単身赴任として海外にいることがほとんどで、家にいない事の方が多かった。
あまり顔を合わす機会がなかったであったが、父のことは大好きであった。
世界のあちこちを飛び回り、いろんな人と交渉できる凄い人。
帰ってくる度に、国際電話で話す度に、父はいろんな土産話をにしてくれた。
仕事で忙しいだろうに、娘の誕生日や記念日をきちんと祝ってくれる、とても優しくて良い父だ。
そしての母は祖父が外国人であったらしく、母自身がクオーターであった。
の明るい髪は母譲りだが、隔世遺伝である母のほうが髪ももう少し赤みが強く、目もかなり青い。
母はかなりの祖父母っ子だったらしく、その感情表現も日本人というよりは外国人のように能動的だ。
元々
最近は年齢もあり落ち着きを持ち始めてきた、と本人は言っているが、どちらかと言えば『関西圏の世話焼きなおばちゃん』気質になってきているように思う。とは娘の所感である。
そんな両親は、前に一度、友人に紹介したら
『くっそイケメンなスパダリファザーがお父様で、
赤髪グラマラス美女がお母様とか
――なんて涙の海老固めを食らった程度には顔も整っている。
が、見慣れているにはあまりピンと来ず、その態度が余計に友人の拘束を強める原因にもなったのだった。閑話休題。
そして現在、両親は家にいない。
が小学一年生の頃、本格的に海外移住したからだ。
もちろん、一人娘であるも当初は共に海外移住の予定であった。
けれどこの時のは『日本がいい。でもお父さんは仕事続けてほしい』なんて無茶な要求を泣いてまで訴えていた。
その後三時間だけのプチ家出などをして、冷静になったは『私だけでも日本に残る』と意見を変え、困った両親が父の妹である叔母を呼び、彼女に保護者兼家主になってもらうことでどうにか収めたのだった。
母は最後までの移住を強行しようとしていたが、そこも父が説得してくれて渋々納得してくれた。けれど今も母は諦めておらず、隙あらば移住を勧めてくるので油断はできない。
七年が経過した今も、両親は海の向こうに行っても元気でやっており、年に三回は帰ってきているし、毎週一度はと国際電話もしている。
そのやり取りもテレビカメラが高度になり、インターネットが普及した今ではパソコンを介したものに変わっていた。
先程のの『電話』は正にこの事を指していた。
自室に戻り、パソコンを起動させたはすぐにプログラムを起動させ、回線を開いた。
通話用にマイク付きのヘッドホンを付け、呼び出し音をBGMに少し待つ。
七回目の呼び出し音が鳴りきる前に、画面が動き、ヘッドホンから【 ザザ…… 】と向こうの音だろう摩れる音が聞こえ出した。
【 ――れ、どうなっ……? そこにいるの? 】
女性の声と共に、遅れて映像が届いた。
いつものように心配そうな顔をした――母であった。
「こんばんわ、お母さん。映像届いてます?」
【 ああ、良かったわ! え? 何て言ったの? 】
どうやら音声が変に被ってしまったようだ。
もう一度言いなおせば【 ええ、見えているわ! 】と笑顔になった母が身振り手振りで丸をくれた。
【 今日は何していたの? もうご飯は食べた? 】
「食べました。今日は日曜だったんで、お昼はいつも通り公園で遊んで――
さっきまで叔母さんのゲーム観戦してました」
【 ゲーム? 】
「友達から借りてたんですよ。明日返すんですけど」
【 あ。もしかしてあの子かしら? 小学校からずっと一緒の子よね? 】
「……そうですよ。その腐れ縁の子です」
【 やっぱり! 】
当たったことが嬉しいのか、にこにこと画面の向こうで笑顔の母は年齢よりも若く見える。
その後も他愛のない近況報告を互いにしていれば、何かを思い出したらしい母が【 そうそう 】と話題を切り出してきた。
【その、ね。には伝え難いんだけれど……】
「え……っと……?」
既にその切り出し方で、内容が『悪い物』であることは察せる。
すぐには思い当たりそうな事を探し――机に突っ伏した。
ゴン、と大きな音がして、モニターもぐらぐらと揺れた。
キーボードがデスクの引き出しに仕舞える無線タイプで良かった。それだけが救いかもしれない。
【 ちょ、ちょっと!? 】
心配しているような、どこか叱責を含んでいるような母の声が、耳からずれたヘッドフォンを通しての耳に入った。
その声を聞きながら「うー」と小さく唸り、はマイクだけを口元に寄せた。
「……とりあえず聞きます。で、何ですか?」
【 その前に起き上がりなさい! だらしないわよ! 】
「……嫌です」
消え入りそうな声で反抗した。
その後もヘッドフォンから母の【 ちゃんとしなさい! 】だの【 もう中学生でしょ! 】という、ありきたりなお叱りを全て聞き流し、最後にそっぽを向けば、諦めたように母のため息が聞こえた。
【 ……急にあの人の仕事が入って、帰れないのよ 】
「っ……!」
分かってはいたが、やはり実際に内容を聞くと辛い。
がしがしと頭を掻いたは盛大に頬を膨らませ、顔を上げた。
画面を見れば、どこか安堵したような、けれど悲しそうに眉を下げる母の顔が映っていた。
【 本当に私もあの人も、には申し訳ないって思ってるの。
あなたの貴重な授業参観だもの。
小学校の時も行けてないし、あの人だってすっごく行きたがってたのよ。
この埋め合わせは必ずどこかでするから――】
母の言葉をは「無理でしょ」とため息混じりで遮った。
「今のシーズンが一番時間あるんだって、前に聞きました。
だから文化祭とか体育祭には行けないってのも、ちゃんと覚えてます。
無理しなきゃ駄目なら、もう卒業式だけで……」
いいです。とは言いきれなかった。
画面の向こうの母が今にも泣き出しそうな気がして、そして自分の顔も見られたくなくて、は膝を抱えると顔を伏せた。
【 ……やっぱり、もこっちに来ない? 】
「いや、お母さん絶対それが言いたいだけでしょ!?」
慌てて否定しようと顔を上げたであったが、見えたのは急旋回して荒ぶる画面であった。
「え」
【 きゃあ! 髪にカメラが――ええっ、何で!? 】
それはこっちも聞きたい。どうしてそうなった。
確かに母の髪は背中まであるし、その髪質も細く、柔らかいクセっ毛なのも知っている。けれどどこをどうしたらそんな風に絡ませられるのか。
そう心の中で突っ込みながら呆然と見守っていたであったが、あまりにも画面の荒ぶりが収まらなかったため、画面酔いを起こしかけてしまった。
慌てて手で目を覆い、深呼吸をする。
「……お母さん? お父さん呼びましょう?」
【 ま、まだ大丈夫よ! だからそんなリアクション取らないで! 】
「いや、私だって好きでこうしてるわけじゃ……」
ちら、と指の間から覗いたであったが、まだ画面はぐるぐると大きく揺れ続けていて、慌てて指を閉じた。
母は必死に自力でどうにかしようとしているようだったが、こういうことにはとにかく不器用な母のことだ。このままではカメラと母の髪がとんでもないことになるかもしれない。
「……おとーさーん」
向こうに聞こえているかは分からなかったが、が何となくそう呼べば、どこかで【 はーい 】と返事が聞こえたような気がした。
ブツ、と何かが切れるような音がして、が手を下ろせば画面が真っ暗になっていた。
「え……あれ? お、お母さん?」
いつの間にか、母の声も聞こえなくなっている。
【 ――さん、さん? 聞こえますかー? 】
そしてようやく聞こえたかと思えば、それは優しい男性の声になっていた。
それはにとって、聞き覚えのある大切な人の声だった。
「お、おおお父さん!?
えあ、は、はい! 聞こえてます!
えっと、まだ画面は黒いですけど……」
【 ……ああ、ちょっと待ってくださいねー。これで…… 】
再びブツ、と音が聞こえたと思えば、画面が明るくなり、母――ではなく父の顔が真正面に映った。
何やらマウスでいじっていた父だったが、カメラ目線になるとにこやかに手を振っていた。
釣られて手を振り返しただったが、ふと母がいないことに気づいた。
「お母さんは?」
【 母さんなら、少しお色直し――ですかね 】
あれだけ乱舞させていたのだ。
きっと酷い絡まり方をしてしまって、整えに行っているのだろう。
納得したは深くは聞かず「そうですか」と頷くだけにしておいた。
「お父さんは、今日は休みですか?」
【 いえ。これからまた仕事で、さっきまで少し準備していたんですよ 】
そうにこやかに説明する父を改めて見れば、と同じ長さの短髪の黒髪が、カメラを通しても分かるぐらいに濡れている。
つまりは出勤前にシャワーを浴びていたのだろう。
【 さん。今回は本当にすみません。
母さんも言っていた通り、この埋め合わせは必ずしますので―― 】
「い、いいんです! 無理なら別に……!」
【 平気ですよ。今回のコレは他の人のミスで起きたことなので……
その人の連続出勤日数が物凄いことになっても、自業自得ってことで 】
「あ……そう、なんですね……」
は知っている。
あの父の笑みは――目と雰囲気が笑っていないことから、本気でその“ミスを起こした人”にどうにかさせて埋め合わせとやらとやるつもりなのだろう。
日本の勤務形態と海外は違っているので、どこをどうさせるのかは知らないが、とりあえずその人が惨いことにならない事を薄っすらと願っておくことにした。
【 帰るときはまた母さんと相談して、決まったら連絡しますね。
その時はお土産もたくさん買って帰りますので、期待しておいて下さいね。
ああ、どこか行きたい場所とかも考えておいて下さい。みんなでお出かけしましょう 】
「え、良いんですか!?」
【 ええ。もちろん! 】
過剰な気もしたが、はそれ以上に“一緒にお出かけできる”と言うところに惹かれてしまっていた。
滅多に家族で出かけられないのだ。まだいつになるかも分かっていないというのに、既に気分は高揚していて、もう寝付けないぐらいには興奮していた。
【 そう言えば、私の愚妹は……もしかしなくとも、またゲームですか? 】
「はい。友達から借りたゲームしてますよ」
【 ……それって、もしかして、この? 】
父は画面の向こうで傍らに置いていたらしいアイフォンを取り出すと、画面を操作して一つの画像をカメラに映し出した。
どうやら叔母が勝手に撮って送っていたらしい、ゲームのパッケージの写真であった。
「ああ。それです。“戦国BASARA”です」
それは対応機種は現在売られている最新
友人曰く、その当時から現在まで人気の
戦国武将が独特の解釈を元に脚色された、アクションゲーム――と友人からは聞いている。
「叔母さんは前から知ってたみたいで、私より先に食いついちゃって……
今はすっかり夢中で――今日も徹夜するって言ってました」
【 へえ……さんは遊んだんですか? 】
「少しだけですけど」
父はアイフォンをスリープにすると机に置き、じっとを見つめた。
【 ――気になる人とかいましたか? 】
「ひ、人……? ええっと……」
不思議な聞き方をするものである。
通常であれば
今までだって何度もゲームの話を交わしたことはあった。
だからその事を父が知らないということもなかった。
なのに父は敢えて“人”と訊いてきたのだ。
そのことに微かな疑問を抱きつつ、は遊んだ記憶を懸命に掘り起こした。
……といっても、にはそれほど記憶はない。
借りてきた当のよりもハマってしまった叔母が、かなり
自分のお気に入りのキャラは元より、自分が気になっているキャラには一切手を出させなかったのだ。
『姪よ。もし勝手に触れて、勝手にレベリングなんてしてみろ。
今夜にでも地獄の釜の蓋が開いて貴様を誘うだろう……!』
という、謎のJ●Jo立ちで宣言をされるぐらいであった。
おかげでが唯一扱ったのは、許可が下りた“銃使いの女性”と”大きな
本物の中二より厨二病を拗らせている叔母に、の目が死んでいたのは言うまでもない。
とりあえず触れぬが吉、と頷いた後で『私の周りってこんな人ばっかなんですか!?』と影で嘆いたもの――悲しい記憶として新しい。
ううーん、と父を前に唸っていれば【 じゃあ 】と父が切り出した。
【 この人はどう思いました? 】
そう再び画像をカメラに近づけられ、父の指が一人の――青い服を着たキャラに向けられていた。
目を瞬かせてそれを見るが……
「え、えっと……人気のあるキャラだなーとしか……?」
には言いようがなかった。
そのキャラは主役級の武将であるらしく、が遊ぶ前に叔母が即行でレベルをMAXまで上げてしまっていたのだ。もちろん『お触り厳禁』である。
だから友人からの事前情報である“一番人気の
【 そうですか…… 】
どこかほっとしたような雰囲気になった父に、は怪訝そうな顔になる。
そんな態度を取られてしまえば余計に気になるわけであり、はもう少しそのキャラに関して思い出そうとした。
とはいっても、後はオープニング映像からとか、敵武将として出てきたときのことしか思い出せないわけであり――
「あ!」
【 えっ!? 】
「なんか、喋り方とかが腹立つとは思いました!
あの腹立つ眼帯引きちぎりたいなーって!」
決して演じている声優や装着している眼帯に文句がある訳ではない。
ただ総合的に見て、敵としてしか見ていないからか、毎度“彼”が登場する度に薄っすらとそう思っていたのだ。
の答えに目を瞬かせていた父は、少しして【 そうですか 】と苦笑した。
どうやら父は納得したようだが、どうしてこんな質問を?
そうが疑問に思ったときには父が【 そう言えば 】と話題を切り替えていた。
【 この前、下級生の子から告白されたそうですね 】
「はいっ!? なななな、なんっ――何で知ってるんですか!?」
ここに来て思わぬ方向に舵を切られ、赤いのか青いのか分からない顔色ではモニターに詰め寄ったのだった。
結局その
両親との通信自体にかなりの時間を費やし、その後も叔母への聴取や、友人へ長ったらしい抗議文を送りつけたりしていたため、の睡眠時間は更に削られていった。
……そして次の日、目覚ましが鳴って一刻が過ぎ、叫び声が一件の家から響いたのだった。