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番外編:想い?(こ・だ・わ・り)
――石の壁に囲まれた薄暗い部屋の中、窓から差し込む仄かな月明かりに照らされて、一人の女性が佇んでいた。
その女性の名はレックナート。
トランの魔術師の島に住む魔法使いである。
彼女は目の前に浮かぶ、淡く光る水晶球に両手をかざしながら、只黙ってそれを見詰めていた。
そんな時彼女が何かに気付き、ふと顔を上げた後、ゆっくりと振り返った。
「…………やっと帰って来ましたか、ルック」
暗闇に向かって囁く様に呼びかける……と、そこには動く影があった。
すると、今まで誰もいなかったはずの場所から、一人の少年が手に買い物カゴを持って姿を現したのだった。
「……ただ今戻りました、レックナート様……はぁ~疲れた……」
その容姿は一見、少女の様な顔立ちだが、声を聞く限りではやはり少年のそれであった。
そして、ルックと呼ばれた少年は、あてつけの様に一度大きく溜息を吐くと、ゆっくりとレックナートの傍らへ歩み寄り、自分が持っている買い物カゴをレックナートに渡した。
レックナートはルックからカゴを受け取ると中身をきっちりと確認する。
かごの中には先程ルックが買って来た、今晩の食材が入っていた。
「…………何とかアサリを無事、買う事が出来た様ですね」
レックナートは少しホッとした表情を浮かべている。
「ご苦労様でした、ルック。疲れたでしょう、ご飯を作ってからお休みなさい……」
「…………。
一つ………質問しても、よろしいですか? レックナート様」
レックナートの言葉を遮る様に、ルックは問い掛けた。
「……何でしょう?」
「…………アサリ……いえ。味噌汁が今日の晩御飯に指定された時、なぜ、すぐにでも買に行かなかったのですか?
あの時行っていれば、チラシに出ていた売出しのアサリは、あんな形で売り切れる事は無かったでしょう……。
あれでは遠くの店に買いに行くしか、僕に選択の余地など無かったのではないですか?」
「……………………」
「あの状態で買って来いと言われては、僕はもう……」
「ルック」
今度はレックナートがルックの言葉を遮った。
そして少しの間沈黙した後、彼女が水晶球に手をかざすと、それは青白く光り出しその中に深く蒼い水面を映し出したのだった。
「これを見て下さい……」
レックナートが指し示した所に、一粒の小さな銀の雫が水面に落ちる……。
今まで鏡の様に張り詰めていた水面に、一つの波が起きた。
それは最初 小さな波であったが、次第に大きく広がり、その水面全体を揺らしていく。
「…………この水が私達の今日の味噌汁だとすると、小さな雫は具……そう、アサリなのです。
本来何も無ければ具は、ただ定められたありきたりの具の味噌汁になるはずでした。
それはこの塔の主夫の貴方にも見えていましたね?」
「…………………話しがよく見えないのですが……?」
「ですが、この味噌汁の具の中に滅多に入れない異質なものの出現により、この水面の様な事が起きています。
最初起きた小さな歪みは時を経るにつれ、その味噌汁に関わる全ての者達に大きな変化をもたらすでしょう……。
本来辿るべき道筋から外れ、それは歴史をも動かす結果になるかもしれません。
アサリがこの世界の“ 味噌汁の具 ”に囚われない存在の為、私にも味は分からないのですが……」
「“ 味噌汁の具 ”に囚われない……存在……。
って言うか、歴史を動かすって一体??」
「…………今まで黙っていましたが、
あのトランに現れた“ シェルビーナス ”は今ここにあるアサリが育ったものです」
「これが!?
では……アサリは元々食材ではなく、魚屋がアサリとして店で売っていると言うのですか!?
でも、どうしてそんな…………」
「理由は…………今はまだ言えません」
「な……!?」
「アサリの中にわずかに入っている“ 実 ”……。あれは本当に美味しいです。
時を越え、繰り返し常に味を目指して少しでも良き方向へと導いて行ってくれるハズ……? それがあのアサリの性質なのです。
もしあの時、貴方がアサリを買う事無帰って来てしまったとしたなら、当然現在の『アサリ』は無く、今の私達の会話も無かったでしょう。
そして、……“ 今 ”のルック、貴方も…………」
「まあ、そうだと思いますけど……あの……?」
「……確かに“ 今 ”の為に私はあの時、貴方に選択の余地を与えなかったのは認めます。
ですが、きっと貴方なら例えおちゃらけた道だと知っても、この道を選んだ事でしょう……。
レパートリーを増やす為に……」
「レックナート様…………。なら……なおさら貴方が味噌汁を作るべきです!
今ならまだ安全だし人前に出す訳でもない……。以前の様な悲劇に遭う事も無いでしょう。
そうだ! そうすればアサリは……」
いつになく感情的なルックを見て、(え)レックナートは何かに気付き、少し表情を曇らせた。
そして、しばらく沈黙した後、ゆっくりと語りだす。
「それは、なりません」
自分の意見を否定され、納得のいかないルックはさらに声を荒げた。
「なぜです!? それが一番最善の方法ではありませんか!!」
「ルック……、貴方は先の戦いで自分が何者なのか知ったはずです。
今、私を台所に立たせる事……、それは貴方自身の想いでは無いのです。
………………これはもう『アサリ』ではないのですから……」
「結局、一体何なんですかコレ!?」
自分の言った言葉で我に返ったルックは、自分のとってしまった態度に気付き呆然とした。
そして震える手で口元を覆い『今の発言はヤヴァかったかな……』と言う表情を見せている。
レックナートはこうなる事を見抜いていたのだと……。
「「 ……………… 」」
例え訳が分からない事ばかり言う人だとはいえ、(笑) 相手は自分の師であり、そしてなにより真の紋章を宿している者なのだ。
機嫌を損ねると、『門の紋章』で異世界に飛ばされるかもしれない……。
以前一度飛ばされ掛けた経験のあるルックは、チラリとレックナートの方を見た。
……今の所、紋章を発動させる気配は無い様なので、ひとまず胸を撫で下ろす。
こうやって人を混乱させて、話をはぐらかすのがいつもの手なのだ。
今回もまんまと彼女は食事作りを回避した。
「時が来ればいずれ分かるでしょう……、全ては星の導くままに……。
…………分かったらそろそろ作りなさい、ルック」
「……はい………」
その後、レックナートの口から何も語られる事は無く、ルックも身の危険を感じたので、それ以上突っ込むのを止めた。
そしてアサリ(?)の入ったカゴを貰い台所へと向かうのだった。
台所に行った彼は、ランプの明かりだけが照らす部屋の中、一人考えていた。
鍋を手に持ったままの状態で、冷たい風の吹く窓の外を見詰めている……。
料理中の考え事は色々な危険を伴うので、良い子は真似をしないでおこう。
『今、私を台所に立たせる事……、それは貴方自身の想いではないのです』
「…………分かってるさ、これが“ あいつ ”の記憶からの感情だって事ぐらい」
トラン解放戦争の最中、ルックは108星の『天間星』として参加した。
その時出会った(?)味噌汁。そして他の仲間(??)と呼ばれるスープを見るうちに、今まで人や自分に対して感心など持った事が無かったルックに変化が起こったのだ。
―――アサリは何の為に、生きているのか?……と。
その小さな疑問は、味噌汁の温かさに触れるにつれ、どんどん大きく膨らんできた。
そして“ 味噌汁 ”の具だったアサリに教えられたのだ、『私は自分の味を磨く為に、この世で生きているの♪』だと………。
「“ 私は自分の味を美味く、深くする為に何度もこの世に生まれて来る ”
……アサリ、あの時君はそう言ってくれたよね?
だったら“ ただの味噌汁 ”しか作れない僕はどうなるんだい?
ただの味噌汁の"具"として……、神ではなく、人の手によって作られたアサリの味噌汁は……」
あの時……最後の戦いの最中、崩れ出す城内に流れた味噌汁の香り。
その香りは初めて嗅ぐ香りのはずなのに、それは直接ルックの魂を揺さぶり、ひどく懐かしい感情とそしてそれと同時に、500年前の記憶が蘇ったのだ。
―――― ソウ……ボクハ コノ香リヲ知ッテイル……味噌汁……朝食…………
―――― 味噌汁ハ 僕ガ毎日朝ニ飲ンデイタ……ナノニ…………
フラッシュバックの様に断片的に思い出される光景。その中には全て、
色取り取りのお皿の中に温かい湯気を立てながらアサリの料理がある……。
込み上げる懐かしさ……そして、なんとも言えぬ満足感……。その全部の想いがルックの全身を駆け巡った。
―――― チガウ……違ウ!違う!! これは僕じゃない!!!
肉体と魂がジレンマを起こす中、最後に見た衝撃的な記憶。
…………それはアサリをメインにバター炒めやシーフードパスタを創り出す、もう一人の“ 自分 ”の姿であった。
「………あの時、初めて知ったよ。僕が“ あいつ ”の複製だったって事を。
そしてアサリに対しての感情がどこから来たのかも。
僕は味噌汁に入れてあったアサリに惹かれたていたんだ、
……味噌汁の具であるアサリに…………」
無意識に胸に手を当てるルック。その心臓の部分には、自分の肉体の核となる【真の風の紋章】が宿されている。
そして紋章の印は他の紋章と同様、右手に現れていた…………。
「………アサリ…いや、“ 具 ”はアイツと同じになってしまったのか……。
何も知らないレックナート様が、この真実を知ったらどうなるだろう?
アイツの好みと同じ具になった味噌汁はもうこの一度しか作らないと言う事を…………」
目を閉じたルックは深い溜息を吐いた。
そして、アサリの名を呟いた後、ふいにあの時の事を思い出し、切なそうな表情で唇に触れた。
柔らかい実の味がまだ残っている……。
それはアサリが味噌汁のおまけなどではなく、れっきとしたメインの食材として存在しているのだという……。
「……そうさ、僕は“あいつ”じゃない。
味噌汁……スープに囚われる必要等ないはずなのに……
分かってるのに……なぜこんなにもレパートリーが少ないんだろう?
僕はどうすればいいんだ? 教えてよ……アサリ…………」
ルックの切なく呟いた声は料理の音にかき消され、窓の外には月が青白く辺りを照らしていたのだった…………。
*******後書き*********
はぁ~い!私、管理人の黒子2です!
ハッキリ言ってワケわからん話になってしまいました!すいません!!
今回は母の10.5話をいじって書いた”パロディードリーム小説”略して”パロドリ小説”!(略すな)
を書かせていただきました! これは裏の様で裏ではない。上げ足パロドリ小説です!
今回のメインであるアサリ……。私はハッキリ言わせて貰いますと全くアサリに思い入れが無い!!(威張るな)
なのに何故アサリなのか…。
皆様の夢(?)を壊す様ですが、それは、10.5話が出来た日の晩ご飯にアサリの味噌汁が…!! そんでそれを飲んでいて考えていたんです。
味噌汁=食事=主婦=主夫=レックナート邸主夫!!!(どんな等式だ)
私もいきなり思い浮かんだので思わず笑って味噌汁が鼻から…。
(食事中の方、すみません!)
それから纏めて~、文字打ちして完成☆
いや~全く持っていい出来ダ!な~んて思って見て見たら、
「レックさんにルッ君。そしてヒクサクまでが変になちゃった……!!(汗)」
あ……でもこれはこれで良く…ゲホ!ゲホ!
ま、まぁとりあえず読んでくれてありがとうございます!
>20050319 作成 黒子2